第90回アカデミー賞授賞式総括:「ジェンダーの平等」がスピーチのメインテーマ

左から、サム・ロックウェル(助演男優賞)、フランシス・マクドーマンド(主演女優賞)、アリソン・ジャネイ(助演女優賞)、ゲイリー・オールドマン(主演男優賞)Photo by David Crotty/Patrick McMullan via Getty Images

第90回アカデミー賞授賞式では『シェイプ・オブ・ウォーター』『ダンケルク』『スリー・ビルボード』が複数のオスカーを受賞した。また受賞スピーチの多くが映画業界における女性の地位や、世界における女性の地位をテーマにしたものだった。

ジェンダーの平等を訴える熱のこもった声があげられ、社会の主流から取り残されていた人々が第90回アカデミー賞授賞式のセンターステージに立ち、『シェイプ・オブ・ウォーター』、『スリー・ビルボード』、『ダンケルク』が一人勝ちすることなく仲良くオスカーを分ける形となった。『スリー・ビルボード』に主演したフランシス・マクドーマンドが、最優秀主演女優賞の受賞後に刺激的なスピーチを行い、ノミネートされている女性全員に起立を促してハリウッドに才能溢れた女性がどれほどいるかを知らしめた。そして契約書に“Inclusion rider(多様性の受け入れの付帯条項)”を書き込むことを要求した。最優秀作品賞を受賞した水陸両生ロマンスのファンタジー作品『シェイプ・オブ・ウォーター』を監督し、最優秀監督賞を受賞したギレルモ・デル・トロは、あらゆる境界線を超えて、”譲れない一線をも消し去る“能力を映画業界が持っていることに驚嘆した。

あらゆる“一線”を消し去ったデル・トロの『シェイプ・オブ・ウォーター』は最多ノミネート作品だったが、4日の夜に獲得したオスカーは4つ。今回のアカデミー賞は趣向の異なる作品が数多くノミネートされた特異な受賞式といえる。『ダンケルク』は第二次世界大戦中にフランスで立ち往生したイギリス軍の救出作戦をドラマ化した作品で、8部門にノミネートされていたが、手にしたオスカーは技術部門の3つ(最優秀録音賞、最優秀音響編集賞、最優秀編集賞)。一方、『スリー・ビルボード』は殺された娘の事件の捜査が始まらないことに憤る母親の姿を残忍なまでに生々しく描いた作品で、鋼のような強さを持った母親像を演じきったマクドーマンドと、彼女を制止しようとする警官を演じたサム・ロックウェルがオスカーを手にした。

シド・ヴィシャスからドラキュラまで、これまであらゆる役柄を演じてきたゲイリー・オールドマンは、『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』のウィンストン・チャーチル役でオスカーを手にした。『ブレードランナー2049』は最優秀視覚効果賞と最優秀撮影賞を受賞し、御年89歳のジェームズ・アイボリーは『君の名前で僕を呼んで』で最優秀脚色賞を、ジョーダン・ピールは『ゲット・アウト』で最優秀脚本賞を受賞した。

ポール・トーマス・アンダーソンが監督した、悩めるファッション・デザイナーを描いた『ファントム・スレッド』は6部門にノミネートされていたが、最終的に得たのは最優秀衣装デザイン賞のみ。『レディ・バード』は5部門にノミネートされていたが、一体としてオスカーを持ち帰ることはできなかった。しかし『レディ・バード』の監督グレタ・ガーウィグが単独での初監督作品で監督賞にノミネートされたこと、さらに同カテゴリーでは8年ぶりにノミネートされた女性監督ということは特筆すべきことだろう。監督賞のプレゼンターとして登場したエマ・ストーンは「今年は4人の男性とグレタ・ガーウィクが傑作を作り上げました」と、皮肉たっぷりに紹介した。ストーンが皮肉混じりに表した感情は、マクドーマンドが受賞スピーチで会場の女性全員の起立を促した時まで、会場内で反響し続けていた空気でもある。

Translated by Miki Nakayama

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