80年代生まれの焦燥と挑戦:こざき亜衣「メジャー or DIEの価値観」


― メジャーとインディーズの境目がなくなってきている時代だからこその“プロとは何か”という問いにもつながるかもしれないですね。


こざき 誰でも作品を発表できる時代になってきているので。私の世代はギリギリ最後に“メジャーor DIE”という価値観を植え付けられてきたと思うので、そこは意識的に変えて行かないとなと思ったりするんですよね。時代に取り残されないように、これまでの価値観から解放されていきたいなと。まあ、それもこれもいまやっと『あさひなぐ』がこれだけ続いてくれて、自分もなんとかなったから言えることなのかもしれないですが。

― そういうことを話す同志のような人はいますか?

こざき そうですね……やっぱりMASS OF THE FERMENTING DREGSの存在は大きかったですね。世代も同じくらいですし。思い返してみると、彼らとの仕事では何かオーダーをされたことがなくて、渡された音楽作品を聴いて感じたことを、自由に描かせてもらっています。音楽と漫画という、異なるジャンルで活動をしていますが、菜津子ちゃんとたまに会って話をすると、同じようなことを考えていたりとか。波長が合うんでしょうね。また、師匠である古屋兎丸先生とも、そういう話はしますね。常に新しいことに挑戦されているので、本当にすごい方だなと。それこそ枠にとらわれないでお仕事を作り出していく人なので。私は気がついたら枠にとらわれている。なんとかやりくりしながら、足場をいつも探しているという感じがあります。

― そういう方が上にいてくださる心強さは、ありますよね。

こざき 自由に何かを作り続ける、ということの難しさは常に感じています。私は制約がないとがんばれないタイプかなと思うので。状況にケツを叩かれて、ようやく動けるというか。そういう制約が何にもなくなったときに、私は何か描けるのだろうか、とは思いますね。誰に頼まれなくても、ただただ描きたいものを描いていくという生き方には憧れもあります。それでも、きっと今の状況で今の自分にしかできないこともあるよね、と思うので。これからも、いろいろな生き方や可能性を否定したくはないですね。いつか自分にも、自由に描くという選択肢が巡ってくこともあると思うので。

― 今は、足場を固めて、と。

こざき はい。今はとにかく、この『あさひなぐ』という作品を最後まで描き上げることに集中していきたいな、と思っています。

・こざき亜衣がレコメンドするもの

『MASS OF THE FERMENTING DREGS』
神戸を代表するオルタナティヴ・ロック・バンドによる2008年発売、セルフタイトルのファースト・アルバム。こざきさんとはお互い活動の初期から交流があり、CDジャケットをはじめフライヤーなどもこざきさんが手がけてきた。



こざき亜衣
1982年、千葉県生まれ。多摩美術大学映像演劇学科を中退後、漫画家/イラストレーターとして活動を開始。2007年に「さよならジル様」で第51回ちばてつや賞一般部門大賞を受賞。2011年より、週刊ビッグコミックスピリッツ(小学館)にて「あさひなぐ」を連載開始。2015年に第60回小学館漫画賞一般向け部門を受賞した同作は、2017年に舞台化/映画化も実現。前者は齋藤飛鳥、後者は西野七瀬(ともに乃木坂46)がそれぞれ主演を務めた。


「あさひなぐ」25巻
小学館
発売中

Edited by Emiri Suzuki

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