ヒップホップの基本の「き」が分かるドキュメンタリー映画、8つの教訓とは?

3. 肩書きにこだわる

「ゴーストライターのいるMCなんてクソだ」。ビッグ・ダディ・ケインはそう断言する。「ヒップホップ以外のジャンルのアーティストが、誰かにライムを書いてもらうのは分かる。みんなやってるし、もはや常套手段だからな」

プシャ・Tはラッパーとエンターテイナーの違いについてこう語る。「俺は昔、5歳上の兄貴にこう言った。『MCハマーを知ってるか? 彼は最高のMCだ!』。すると兄貴はこう言ったんだ。『違うな。彼は最高のエンターテイナーだ。MCハマーのリリックと、ラキムとかラン・DMCリリックを聴き比べてみろ。違いがわかるはずさ』。それ以来、俺はリリックに注目するようになったんだ」

4. ライムに正解はない

プシャ・Tはこう話す。「朝のシャワー中はいいライムが生まれる。シャワーを浴びながらのフリースタイルはノってくるんだ」。ジェイダキスとスタイルス・Pは、レコーディングにおいては全ヴァースの一発録りにこだわり、複数のテイクからヴァースを構成することは絶対にしないと主張する。一方、スラグは運転中にアイデアが浮かぶことが多いという。「運転しながらライムを考えるのが好きなんだ」。彼はこう続ける。「視界に入るものが目まぐるしく変わっていくことで、思考回路がただ座っているときとは違う働き方をする。車を運転してると、自然とストーリーが浮かび上がってくる。俺は運転してるときが一番幸せなんだ」。もちろんラップを除いては、という意味だろう。

5. ジェイ・Zの手をすり抜けた「グラインディン」のビート

『Word is Bond』は話が脱線気味になることも少なくないが、プシャ・Tがクリプスのクラシック「グラインディン」の起源について語る場面は、同作のハイライトの一つと言っていい。「ファレルがスタジオから電話をかけてきて、俺が15分以内に来なかったらそのビートをジェイ・Zに送るって言ってきたんだ」。プシャ・Tはそう話す。「彼は自信たっぷりにこう言った。『急いだ方がいいぜ。このビートが欲しけりゃ、今すぐすっ飛んでくることだな』」

「(あのビートは)とにかく個性的で、俺はヴァースを書き直さないといけなかった。そんなことをしたのはあれが初めてだったと思う」。彼はそう続ける。「最盛期を迎えてたあの頃、ファレルはラジオでかかるあらゆる曲で歌ってた。なのに俺たちにくれたビートは変則的で、フックさえなかったんだ」



6.「今のラップはクソだ!」:パート1

本作に登場する出演者の多くは、現在のメインストリームのヒップホップに対する考えをはっきりと示さないが、ピーディ・クラックは例外だ。

「今のラップはクソだ!」。開口一番そう息巻いた彼は、さらにこう続ける。「今のシーンには競争意識ってものがない。そりゃそうさ、競争すべき相手がいないんだからな。今はクソみたいなラッパーしかいない。リリシストとしての自分を奮い立たせてくれるようなやつの登場を願うばかりだよ。今のシーンはマジでクソだ。本当にドープなヤツが見過ごされ、ロクでもないヤツらがもてはやされてる」

Translated by Masaaki Yoshida

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