ケンドリック・ラマーの創造力とマーベルの世界観が融合、『ブラックパンサー・ザ・アルバム』レビュー

左:ケンドリック・ラマー 右:チャドウィック・ボーズマン(Photo by Kevin Winter/Getty Images for NARAS, Marvel Studios)

マーベル映画最新作『ブラックパンサー』のオリジナル・サウンドトラックは、シリーズ初となる全編がヒップホップで構成された一枚。総合プロデュースを務めたケンドリック・ラマーが、子どもの頃からの夢と21世紀の政治観を投影したサウンドトラックを完成させた。

ウォルト・ディズニーのような巨大企業とその子会社たちが、黒人ならではのアートと知性に満ちた作品の大規模なマーケティングを画策するなど、以前では考えられなかったことだ。しかし我々は、そういう予想外のことが日常的に起きる時代に生きている。数々のスーパーヒーローを生み出してきたマーベルの最新作『ブラックパンサー』は、公開前から『スター・ウォーズ』並の注目を集めている。そしてそのオリジナル・サウンドトラックは、映画そのものに引けを取らないほどの話題を呼んでいる。

その理由はもちろん、文化や人種の壁を軽々と飛び越えるポップスターでありながら、ブラック・ライヴズ・マター・ムーヴメントにおける象徴的存在となった、ケンドリック・ラマーが全面的に参加しているからだ。アルバムのオープニングを飾る「ブラックパンサー」で、ラマーは主人公のオルター・エゴであり、架空のアフリカ国家ワカンダの王ティ・チャラに扮している。そのリリックは物語の舞台背景を描くのみならず、現実の世界における黒人の人々の切実な思い、そして21世紀ならではの政治観が反映されている。「この街の王、この国家の王、我々の故郷の王よ」。ラマーはこう問いかけてみせる。「あんたが信じるものは何だ? 行動を起こす覚悟はあるか? この街に何をもたらそうとしているのか?」



本作の比較対象として真っ先に挙げられるのは、カーティス・メイフィールドの『スーパーフライ』、そしてマーヴィン・ゲイの『トラブル・マン』だろう。70年代初頭のソウルミュージックと、高まりを見せていた当時の社会的意識が高次元で結びついた両作は、ブラックスプロイテーションにおける傑作サウンドトラックとして語り継がれている。しかし、その比較は必ずしも妥当ではない。本作の総合プロデュースを務め、14曲の制作に携わったラマーは、全編にわたってマイクを握っており、物語に自身を登場させている。

しかし何より特筆すべき点は、21世紀ならではのコンセプトと言える音楽キュレーションにおいて、彼が能力を存分に発揮していることだろう。ロサンゼルスの盟友(スクールボーイ・Q、アブ・ソウル)から、サザンラップのヒットメイカー(フューチャー、トラヴィス・スコット)、ニュー・ソウルの代表的存在(ザ・ウィークエンド、アンダーソン・パーク)、そして南アフリカのミュージシャンたちを含む、アメリカでほとんど知られていない数々のアーティストらを、彼は見事にまとめあげている。

Translated by Masaaki Yoshida

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