ローリングストーン誌が選ぶ「2017年ベスト・ポップ・アルバム」20枚

4位 サム・スミス『スリル・オブ・イット・オール』
Sam Smith
サム・スミスは液体のように滑らかなソウルマンだ。オーティス・レディング、アリサ・フランクリン、レイ・チャールズの流れを汲みつつ、エイミー・ワインハウスやアデルなど、近年のアイコンの影響も取り入れる柔軟さを持つ。大ヒットアルバム『イン・ザ・ロンリー・アワー』に続くこの作品では、“彼の声”がすべてを先導している。初期の頃のシグネチャーだったクラブビートは鳴りを潜めているが(ディスクロージャーの「Latch」参照)、ファルセットがかった魅惑のボーカルはそれを補って余りあるだろう。特筆すべきは「ヒム」。クィアの恋愛感情と、それに対する文化的な非寛容をうたった感傷的なこの曲は、派手さを排除したゴスペル風で、LGBTQの公民権運動のアンセムとなっている。これは自分なりのやり方で世界中の人々へ熱心に手を伸ばしている一人のゲイのサウンドであり、その目的を達成している音楽である。

3位 テイラー・スウィフト『レピュテーション』
Taylor Swift

悪感情(「Bad Blood」)は家の中で生まれる! 何ヶ月も表舞台から姿を消していたテイラー・スウィフトが、華やかに飾られた恨みと水晶のようなトラップビートで埋め尽くされた、きらびやかな音の宮殿とともに華々しくかつ大胆にカムバックした。「ルック・ホワット・ユー・メイド・ミー・ドゥ〜私にこんなマネ、させるなんて」での悪女っぷりはぜひ歴史書に記録して、これが画期的なPR作戦なのか、世紀の大失策なのかを、後世のポップス学者たちに何世代にも渡って討論してもらいたいものだ。ラッキーなことに、シングル・カットされたのはアルバムで語られるストーリーの前半部分だけで、同作に収録されているスウィフト史上、最もリアルで、最も生々しい曲はピカピカに磨かれたサウンドの後ろにしっかりと隠されている。「ドレス」では新しいロマンスの到来に興奮しているテイラーがいる。「ニュー・イヤーズ・デイ」ではパーティーが終わったあとに何が残るかを思い悩む彼女がいる。そして最後に、我らがスウィフト女王は、気分次第で最先端ポップスの王座にいつでも返り咲けることを、これ見よがしに見せつけるのである。

2位 ケシャ『レインボー』
Kesha
裁判での辛苦のあとのリリースという状況ゆえ、どんな作品であっても当座の成功は保証されていただろう。しかし、デビューから7年経った今回のカムバック作品は、人々の想像を遥かに超えた、芸術の戦士の強力な雄叫びといえるものとなった。まずはアコギで奏でられるアンセム「バスタード」で幕開けする。この曲はコンサート会場で観客が一斉にライターを灯す往年の曲さながらだ。そこからケシャは下品な「レット・エム・トークfeat. イーグルス・オブ・デス・メタル」でパンク・ポップに舵をきり、「あちこちのヘイターたちに私のディックをしゃぶらせることにしたの」と生意気な小悪魔ポップス調で歌う。これに似た珠玉の瞬間が次々と飛び出してくるのだが、最高の瞬間は「ウーマンfeat.ザ・ダップ・キング・ホーンズ」でやってくる。最初のヴァースの真ん中で彼女が歌いながらいきなり笑い出すその声は、自分の中の絶対的な強さを確信して、地獄のような日々を生き延びた者にしか出せない声だ。

1位 ロード『メロドラマ』
Lorde
「ロイヤルズ」で登場した10代の神童も20歳になり、共同プロデューサー、ジャック・アントノフの協力を得て、従来のヒューマン・スケールと手作り感は残しつつも、エレクトロニック・ミュージックの壮大な風景を導入した2枚目のLPでさらなる音楽の高みを目指した。無敵の不機嫌な高校生ロードの感情パレットはその絵の具の数を膨大に増やし、シンセ・ビートとダブ・エフェクトの隙間を縫って聞こえてくるギターと管楽器の音風景も大きな広がりを見せる。最も野心的な収録曲はアート・ロックの母ケイト・ブッシュを彷彿とさせる(シングル曲「グリーン・ライト」参照)。しかし、今作での一番の功績は、21世紀のポップスのフィールを巨大に広げながらも純粋なまでの深奥さを持たせた点だ。これから世に出てくる若手ポップ・ミュージシャンたちの試金石となるべき1枚である。



Translated by Miki Nakayama / Edit by Toshiya Oguma

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