2パック、ヒップホップ史を塗り替えた8つの革命

悲劇的な死から20年を経ても衰えない、2パックの計り知れない影響力とは。

1996年9月13日にこの世を去ったトゥパック・シャクールは、20年後の現在でも絶大な影響力を誇るとともに、ヒップホップ界で最も謎めいた存在であり続けている。両極端な性格で知られた2パックのパブリックイメージは様々だ。『キープ・ヤ・ヘッド・アップ』のミュージックビデオでは優しく息子を抱きかかえてみせる一方で、1994年に強姦罪に問われた際にはメディアの前で怒りをあらわにし、カメラに向かって唾を吐きかけた。有名なBETのインタビューでは、感情をむき出しにしながらインタビュアーのエド・ゴードンを論破し、その死からわずか数週間後に公開された『アイ・エイント・マッド・アッチャ』のミュージックビデオでは、まるで自身の運命を予測していたかのように、天国での自分の姿を描いている。

無数の逸話を残してこの世を去った2パックは、現在に至るまで唯一無二の存在であり続けている。ストリートへの愛に満ちたローカルな存在を標榜しながらも、メインストリームでの成功を貪欲に求めるというヒップホップの世界における矛盾を、彼は誰よりも明確に浮き彫りにしてみせた。不条理なまでの気高さ、好戦的な態度、そしてギャングスタイズムといった彼の強情な一面は、人種差別が今なお残るアメリカ社会に生きるブラックアメリカンたちの誇りと共鳴するとともに、黒人同士の争いに対して警笛を鳴らしている。

彼を未だに敵視するイーストコーストラップの信望者たちは、2パックのアルバムがナズの『イルマティック』、ノトーリアス・B.I.G.の『レディ・トゥ・ダイ』、ジェイ・Zの『リーズナブル・ダウト』といったクラシックと並べて語られることに異論を唱える。しかしマッチョな全身を覆ったタトゥーと、スキンヘッドに巻かれたバンダナをトレードマークとする彼が、ヒップホップのあり方を大きく変えたということは紛れもない事実だ。ヒップホップ、そしてポップカルチャーそのものを揺るがした2パックの功績を振り返る。

1.『ジュース』で冷酷な殺人鬼ビショップを演じたシャクールは、映画界へ進出するラッパーたちの先駆けとなった

アイス・キューブがコンプトンのドラッグディーラー、ダウボーイを演じた『ボーイズ’・ン・ザ・フッド』で俳優としての評価を確立する前に、2パックは銀幕デビューを果たしている。『ジュース』は1992年1月に劇場公開され、その数ヶ月後には『ニュー・ジャック・シティ』に出演したアイス・Tが注目を集めた。しかしアトランタで過ごした高校時代に演技について学んだシャクールは、俳優として成功を収めた他のどのラッパーよりも自信に満ち、その圧倒的な存在感は今でも変わらない。その後の作品では期待されたほどの成功を収めることはできなかったものの、ビショップを思わせる冷淡なキャラクターを演じたバスケットボール映画『ビート・オブ・ダンク』、ヘロイン中毒のジャズミュージシャンを演じたインディー作品『グリッドロック』等でも、彼は素晴らしい演技を披露している。

2. 犯罪者を侮蔑する「サグ」という言葉にたくましさのイメージを植え付けた

どこか散漫な『2パカリプス・ナウ』と『ストリクトリー・4・マイ・ニガズ』の2作を発表後、シャクールは自身のクルーT.H.U.G. L.I.F.E.(The Hate U Gave Little Infants Fucks Everybodyの略)を発足させた。当時西海岸を席巻していたギャングスタブームに便乗したものだと思われたが、結果的にシャクールはオックスフォード辞書で「暴力的な人物、犯罪者」と定義される「サグ」という言葉に、社会的困難を乗り越えようとするたくましい人物というポジティブなイメージを植え付けてみせた。クリーブランド出身の4人組ボーン・エンタープライズは、1994年末にボーン・サグズン・ハーモニーに改名した。ヤング・サグやスリム・サグといった名前も、2パックの功績なしでは存在しなかったに違いない。

3. 強姦罪に問われたニューヨークでの裁判は、ラップスターが法廷に立たされるというケースの先駆けとなった

1993年に勤務時間外の警察官2名を銃撃した事件をはじめ、トゥパックは過去にも様々な犯罪に関与していたが、1994年にそのイメージを一気に加速させることになった。先述のカメラマンに唾を吐きかけた事件はもちろん、クアッド・スタジオで殺し屋から5発の銃弾を浴びながらも生き延び、収監日に車椅子に乗って出頭した姿はメディアによって大々的に報じられた。ラッパーが犯罪に関与するケースは現在も後を絶たないが、彼ほどメディアを賑わしたアーティストは他にいない。

Translation by Masaaki Yoshida

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