映画『コンカッション』:ウィル・スミス対NFL、医師が選手のために立ち上がるドラマ

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ウィル・スミス演じる医師が、NFLに挑み選手のために立ち上がる実話に基づいたドラマ。


ウィル・スミスがゴールデングローブ賞主演男優賞にノミネートされた。実在の法医学者、ベネット・オマル医師を演じたスミスは最高の称賛を受けるにふさわしい。アメフトの知識は皆無のナイジェリアからの移民、オマル医師は、NFLの最悪の悪夢となった。それはなぜか?ピッツバーグの検死施設のよそ者として―死者には語るべき物語があると信じ、解剖する遺体に優しく語りかけるオマル医師に同僚たちは反感を持つ―この名医は、ある重要な領域に踏み込んだからだ。

オマル医師は、殿堂入りしたピッツバーグ・スティーラーズのセンター、"鋼の男"マイク・ウェブスター(デヴィッド・モースが素晴らしい)の脳を検査し、試合での頭突きがウェブスターの記憶障害や認知症を引き起こし、結果的に彼を死に追いやったことを突きとめる。そしてこれを慢性外傷性脳症(CTE)と名付け、患者が亡くなるまで発見されなかった病について、プロやアマチュア選手に警鐘を鳴らす活動を始める。オマル医師は、繰り返し頭をぶつけ合い、ボロボロになることを選手の誇りの源としたり、無知な観衆に歓声を上げさせる術としたりすべきでないと主張する。選手たちは何と戦っているのかを知る必要がある。

オマル医師は、上司のシリル・ウチェットの協力を得る。意地悪な皮肉屋のウチェットを演じるのは主役を食うほどの存在感のアルバート・ブルックスだ。昔は日曜日は神様のもので、NFLの支配下にはなかったと彼は嘆く。さらにオマル医師は、スティラーズの元チームドクターだったジュリアン・ベイルズ(アレク・ボールドウィン)を味方に引き入れる。ベイルズは、大勢の脳震とう被害者を試合に戻らせていたことを償いたいと思っていた。しかし、利権を守るためにNFLは、―ルーク・ウィルソン演じるNFLコミッショナーのロジャー・グッデルは―オマル医師の仕事や優れた評価を脅かす激しい反撃に出る。

人々の心をつかむ物語だ。最も悲惨なのは、ジャスティン・ストルゼルチャイク(マシュー・ウィリグ)やデイブ・デュアーソン(アドウェール・アキノエ=アグバエ)といった頑丈な選手が精神を病み苦しむが、その原因はCTスキャンには写らないことだ。監督のピーター・ランデズマン(『パークランド ケネディ暗殺、真実の4日間』)は、この作品の脚本も手掛けているが、展開の遅さや話し手を延々と映すショット、説教臭さ、妻のパルマ(美しいがひどく疲れ切っているググ・ンバータ=ロー)とオマル医師との合間の無駄なストーリーが、この映画の良さを損ねている。そして最も引き締められるべき場面で、だれてしまっている。幸いスミスの完璧な訛りとオマル医師の価値のある大義への献身が、最初から最後まで観客を引き付けて放さない。アメフトジャンキーにはスーパーボウル前に見るべきだとは言い難い。だがしかし、どうだろう?見るべきかもしれない。



『コンカッション』

監督/ピーター・ランデズマン
製作/リドリー・スコット他
キャスト/ウィル・スミス、アレック・ボールドウィン、ググ・バサ=ロー他
2016年10月29日(土)より全国順次公開
http://www.kinenote.com/concussion/


Translation by Cho Satoko 

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