映画『スター・トレック BEYOND』:長寿シリーズが辿り着いた境地

この設定は思いがけないペアを生み、キャラクターたちの新たな魅力を引き出してみせる。スポックとボーンズ(カール・アーバンが見事に演じている)が互いに陰口を叩き合う様子は観客の笑いを誘う。カークとチェコフ(その見事な演技は、イェルチンの死を一層悔やませる)の2人は、囚われたウフーラとスールーの救出に向かう。互いをライバル視するスコッティと白と黒のウォーペイントが印象的なジャイラ(『キングスマン』で主役を食うほどの存在感を見せつけたソフィア・ブテラが演じる)のインテリチームは、ラップと呼ばれる大昔の音楽のスキルを磨き合う(「ビートとシャウトがたまんないわ」)スコッティは逞しいジャイラを「お嬢さん」と呼んでみせる。

ストーリーが複雑な展開を見せる場面も少なくないが、リンは見事に舵をとってみせており、俳優たちは内容を深く理解した上で演技に臨んでいることがうかがえる。特殊メイクにより素顔はほぼ認識不可能とはいえ、エルバが演じるクラールは迫力満点だ。(それにしても今作におけるエルバ、『ダークナイトライジング』のトム・ハーディ、『X-MEN: アポカリプス』のオスカー・アイザックをはじめ、なぜ才能に満ちた俳優たちに馬鹿げたマスクを被らせるのか、筆者は理解に苦しむ。どんな役でもこなすエルバにとっては朝飯前だろうが、個人的にはこのトレンドが早く終わることを願っている)

垂木を次々に破壊するヨークタウンでの戦闘シーンにおけるクライマックスでは、様々な視覚効果がこれでもかと言わんばかりに駆使されている。しかしなお、『スター・トレック BEYOND』におけるハイライトは、あるキャラクターが一枚の写真を見つめるシーンだ。どこを指しているのかは、実際に作品を観ればすぐに分かるはずだ。『スター・トレック BEYOND』の派手なアクションの裏には、観る者の涙を誘う感動が隠されている。


『スター・トレック BEYOND』



監督/ジャスティン・リン


製作/J・J・エイブラムス他


キャスト/クリス・パイン、ザッカリー・クイント、ゾーイ・サルダナ、サイモン・ペッグ、カール・アーバン
10月21日(金)より全国ロードショー


http://www.startrek-movie.jp/


Translation by Masaaki Yoshida

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