ストーンズとデイヴ・マシューズの『メモリー・モーテル』を聴く

(Photo by Paul Natkin/Getty Images)

98年夏、ストーンズとデイヴ・マシューズが、アルバム『ブラック・アンド・ブルー』の人気曲で共演した。

75年3月に『メモリー・モーテル』をレコーディングしたザ・ローリング・ストーンズは、そのキャリアの中で奇妙な状況に置かれていた。というのも、ギタリストのミック・テイラーが脱退して間もない当時、ストーンズはロニー・ウッドとウェイン・パーキンスと一緒に活動していたものの、これは彼らがバンドにふさわしいか見極める段階であり、実際には正式な後任者が加入していない状況だったのだ。「本当に五分五分でした」。こうキース・リチャーズは手記『ライフ』に綴っていた。「ウェインとロニーのどちらかという状況だったのです」

『メモリー・モーテル』では、ウェインとロニーがギター、キースが電子ピアノ、ビリー・プレストンがアコースティック・ピアノを担当している。これはストーンズにとって珍しい組み合わせで、その結果、バンドの従来の曲と異なるサウンドを生み出した。7分8秒の『メモリー・モーテル』は、ストーンズの中で最も長い曲の一つであるだけでなく、ミックとキースが共にリード・ヴォーカルを担当した数少ない曲の一つでもある。また、ミックがほぼ一人で作詞作曲したが、曲のクレジットはジャガー=リチャーズとなっている。

『メモリー・モーテル』は、米ニューヨーク州ロングアイランド島のモントークにあるモーテルからインスピレーションを得た曲だ。これまでにミックは、曲に登場する「ハンナ・ハニー」が誰なのか明らかにしていないが、多くの人がカーリー・サイモンではと推測してきた。実際のカーリーは、歌詞の通りに「ちょっぴり曲がった」鼻の持ち主ではあるが、彼女の瞳はヘーゼル色ではなく青色だ。また、『メモリー・モーテル』の3年前にミックがバックアップ・ヴォーカリストとして参加したカーリーの『うつろな愛』が、曲にインスピレーションを与えたのではないかという憶測も飛び交ってきた。『メモリー・モーテル』が『うつろな愛』に対するアンサーソングの可能性もあるが、ミックもカーリーもそれを認める心構えはできていない。

『メモリー・モーテル』は、76年のアルバム『ブラック・アンド・ブルー』に収録されている。同アルバムは、ミックさえもがストーンズの中で劣ったアルバムだと評価している。「みんなドラッグをやってたんだ。特にキースがね」。こうミックは、95年にローリングストーン誌に話していた。「だから、アルバムは少し劣ってるんだ。全体的にダメだね。俺たちは人気とかで、少し有頂天になってたと思う。ちょっとした休暇期間みたいな感じだったんだ。まぁ、力は入れてたけど、それまでに比べたら、力が入ってなかったね」

一方で、多くのファンの意見はバンドのメンバーの意見とは異なり、『ブラック・アンド・ブルー』の評価は、月日が経つにつれて高まっている。『メモリー・モーテル』は、2000年代にストーンズがライヴで披露したのは、わずか3度だけであるにもかかわらず、ファンのお気に入りの一曲というステータスを保ち続けている。90年代には、より頻繁に披露された『メモリー・モーテル』だが、その中でも最も記憶に残るパフォーマンスは、デイヴ・マシューズ・バンドがストーンズの前座を務めた、98年7月15日のアムステルダム公演の時のものだろう。この時、デイヴが『メモリー・モーテル』の曲に飛び入り参加し、ミックとキースと一緒にヴォーカルを担当した。この音源は、99年のライヴ・アルバム『ノー・セキュリティ』に収録されている。

ライヴの動画は、以下。

Translation by Miori Aien

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