ストーンズのハバナでの歴史的ライヴを収めたドキュメンタリー映画がプレミア上映

映画には、ロサンゼルスでのリハーサルの模様も含まれている。マネジメントチームが前代未聞のツアーファイナルを画策しているシーンでは、「オペレーション:キューバまであと31日」との表示が入る。アルゼンチンのホテルの部屋から外のファンに向かって、まるで慈愛に満ちたブルース・ロックの教皇のように手を振るリチャーズ。“教皇”といっても、聖金曜日にあたる2016年3月25日にストーンズがコンサートを行うことを批判した本物のローマ教皇のことではないのでお間違いなく。ブラジルではミックがある家族のドラムセッションに加わり、バックステージではリチャーズが少女と一緒に即興のダンスを披露する。さらに、ストーンズの伝説にまつわるアンダーグラウンド・カルチャーを支えてきた、アルゼンチンのロリンガ(ストーンズ・ファン)のような威勢のよいラテンアメリカの少年ファンたちの姿も映し出す。映画に登場するファンたちにとってストーンズの音楽は、車の中で聴くものでも、シリウスXMラジオのクラシックロック・チャンネルで聴くものでもない。国による制限や検閲をかいくぐる力強い反骨精神そのものなのだ。長い間、中南米のいくつかの国ではストーンズのレコードを持っているだけで逮捕された。強い抑圧から解放され、『黒くぬれ!』をバンドと一緒に合唱することのできる爆発的な感情が、映像全体から伝わってくる。

もちろんこれまでにもストーンズのドキュメンタリー映画は存在する。それらの映像を通じて、放浪するまとまりのないブルース演奏家グループや、身なりのきちっとした紳士まで、バンドのさまざまな一面を見ることができる。マーティン・スコセッシ監督のおかげで、映画『シャイン・ア・ライト』では冬のライオン的なメンバーの姿が拝める。しかし、中南米を巡り革命的な偉業を成し遂げたストーンズを追ったダグデール監督のドキュメンタリー映像は、今後二度と見ることのできないストーンズの姿だろう。言ってしまえば単なるツアー日記だし、商業的すぎると感じる人もいるかもしれない。しかしみんなきっと気に入るはずだ。キース・リチャーズとロン・ウッドが、このドキュメンタリー映画を紹介するためにトロント国際映画祭のステージに上がった時に巻き起こったものすごい歓声が、その後プレミア上映される映像への期待の高さを物語っていた。2人はプレミアに集まった人々をしばらくの間眺め、笑顔を浮かべた。リチャーズがマイクへ歩み寄り、「オーレ、オーレ、オーレ!」と声をあげた。「ほかに何を言えばいい?」

キース、何も言わなくていい。ただ俺たちにホンキー・トンク・ウィメンを歌ってくれれば。


トロント国際映画祭でのプレミア上映に来場したキース・リチャーズとロン・ウッド

Translation by Smokva Tokyo

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