グリーン・デイが語る、復活までの長い道のり:新作『レボリューション・レディオ』制作秘話

『Ordinary World』におけるミッドライフ・クライシスというテーマは、『レボリューション・レディオ』にも登場する。10代の若者が抱える混乱を見事に描いてみせるアームストロングは、中年の危機に同じリアルさを感じているのかもしれない。「家に一人でいると、時々俺はもしかして空っぽなんじゃないかって感じるんだよ」彼はそう話す。「自分は一体何者なのか、今の俺にとってまぎれもない真実だと断言できるものとは何か、そんな風に考えるんだよ」。ザ・フーを思わせるアルバムの冒頭曲『サムホエア・ナウ』で、アームストロングは「病んだ魂」について歌う。「どうしようもない憂鬱さを克服しようともがくあの感覚さ」彼はそう話す。「それこそがこのアルバムのテーマなんだ」


ビリー・ジョー・アームストロングが主演を務めた『Ordinary World』のワンシーン

今作でアームストロングは、様々な問題に直面する現在のアメリカに対する思いをストレートに表現している。「今の世界は、古いデッド・ケネディーズのアルバムのジャケットを連想させる」彼はそう語る。横暴な警察による暴力(彼は90年代にもこの問題について言及している)、そして

Black Lives Matter Movement(黒人の命だって大切だ運動)は、今作におけるメインテーマのひとつと言っていい。「今の俺にできること、それは彼らの言い分にただ耳を傾けることだ」彼はそう話す。「白人の大部分はそう感じているはずさ。アフリカン・アメリカンとして生きることが何を意味するのか、彼らには知りようがないからね。罪のない人間が車内に閉じ込められたまま撃たれ、刑務所にブチ込まれ、巨額の釈放金を請求されるなんて、狂ってるとしか言いようがない。そんな状況を変えるための最初の一歩は、問題のありかを正確に把握することだ。『Blue Lives Matter(警察官の命も大切だ)』『ALL Lives Matter(全ての人種の命が等しく大切だ)』とかなんていう、安易な言葉で問題を置き換えようとするんじゃなくてね。まずは黙って彼らの声に耳を傾ける。行動を起こすのはそれからさ」



『レボリューション・レディオ』からのファーストシングル、『バン・バン』が前触れなく発表された日の翌日、愛車の1963年製ボルボでバークレーのギルマン・ストリートを走っていたトレ・クールは、グリーン・デイの歴史が始まった場所へと向かっていた。彼は大型スーパーのトレーダー・ジョーやマンションが立ち並ぶエリアを指差して、かつてそこにはさびれたウェアハウスが立っていたのだと話す。目的地のクラブまで半マイルというところでダッシュボードのエンジンライトが点灯し、車がプスプスと音を立て始めた。「俺ももうすぐスクラップ、って言ってるのかもね」そう話す彼はトラブルを楽しんでいるかのように見える。車から出た我々は、交通量の少ない道路の駐車スポットまで車を押していかなくてはならなかった。

もしかするとそれは、はるか昔にメジャーレーベルと契約を交わした彼に、パンクの神が与えた罰だったのかもしれない。そんなことを考えながら、我々は無人のクラブへと歩いて向かった。クールがバンドに加入する前の80年代後半に、グリーン・デイが頻繁に出演していた924ギルマンは現在も営業を続けている。メンフィスのサン・スタジオ同様、外見上はこれといった特徴のないレンガ造りの建物だ。「中も別に立派ではないよ」クールは懐かしそうにそう話す。窓には最近出演したバンドのステッカーがびっしりと貼られており、中にはジェイコブ・デンジャーのものもあった(後にこのステージに立った際、アームストロングはこう口にしたという。「まるで映画のワンシーンだな」)。

Translation by Masaaki Yoshida

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