レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのティム、新バンドのウォクラットについて語る

─アルバムを聴いて、また現在公開中のバンドが狭い部屋で演奏する初のミュージック・ビデオを見て、ウォクラットの音楽には非常にプライベートでパンクっぽい雰囲気があると思いました。大規模なステージでああいった音楽をやるというのは面白いアイデアですね。

おかしな話だけど、そのビデオでステージ上に広げたあのカーペットを持ってきている。もっと大々的なセットにもできるけど、俺たちは自分自身を見失わずに、自分たちのやり方で演奏したい。だから、文字通りあのカーペットを広げた。ちゃんと計ってあんな感じにした。あのリハーサル・ルームとまったく同じで、俺たちはドラムをドラムライザーに載せない。フガジのスタイルさ。

─フガジは、このプロジェクトに大きな影響を与えた存在なのですか?

ああ、そうだよ。フガジ、マイナー・スレット、バッド・ブレインズ、ミニットメン、あと信じられないかもしれないけど、ザ・プロディジーから影響を受けたね。それから、ドラマーのマティアスはかなりのジャズマニアなんだ。俺もびっくりするほど、彼はジャズに関してかなり幅広い知識を持っている。ビバップ時代の音楽は全部聴いていて、何の曲か教えてくれるだけじゃなくて、サウンドからプレイヤーの名前まで当てることができるんだ。かなり狂っているよ。だから、このプロジェクトにはジャズの影響が強いし、セックス・ピストルズとかいろいろな影響を受けている。俺のインスピレーションになっているような、子供の頃に聞いていた音楽や今までやる機会が得られなかったような音楽とか、すべてが詰まっている。このバンドで全部できてラッキーだよ。

─あなたは、このバンドをパンク・バンドと呼んでいますが、音楽自体は荒削りな印象がある一方、明らかにプログレッシヴな要素もあります。普通、これらふたつのスタイルは両立できないものだと考えられていますが、ウォクラットは両方のスタイルを取っています。

その通りだよ。拍子記号はパンクの概念にとらわれない方がいいと思っている。ほとんどの音楽と同じように、パンクロックの大半は4/4拍子だけど、俺たちには4/4拍子の曲がない。どの曲も変拍子で書かれていて、今日の話題のひとつでもある『Sober Addiction』って曲もそうで、7拍子で書いたものだ。

変拍子で演奏する経験はプログレッシヴ・ロックから来ていて、子供の頃に聴いたキング・クリムゾンの曲や、たぶんピンク・フロイドの『マネー』みたいな曲から学んだことなんだ。自分がバンドをやって、そういったことを理解する必要が出てくるなんて、特にこういうタイプのバンドをやることになるなんて考えもしなかったよ。こんなに速い曲を演奏するバンドに入るなんてね。レイジともオーディオスレイヴとも完全に違うものだから。(それらのバンドは)もっとグルーヴ重視だったから、俺はそのグルーヴに組み込まれていただけだった。でもこのプロジェクトでは、何だか違う。気がつくとフレーズを終えて一呼吸置いて、ある動きで演奏を終えて、「うん、大丈夫だ」って思ってしまうんだ。でも突然、「ちょっと待てよ、俺はそこで息をしなかったし、動きも間違っていたぞ。俺はちょっと狂ったのか、何かが起こったんだ」って思う。不思議だけど、そんなに無意識の状態だったのかって驚くし、面白いよな。俺たちはどんどんよくなっていると思うよ。


「このプロジェクトは俺が考えるパンクロック・バンドというものを完成させる数学的なプロセスみたいなものさ」と、ウォクラットについて語るコマーフォード。(Photo by Travis Shinn)

─他に、私がこのバンドについて印象的だと思ったのはあなたのヴォーカルです。メロディックなサビのせいなのか、激しく熱狂的な雰囲気のせいなのかは分かりませんが、曲をキャッチーにしようと苦労しているような印象を受けました。ファンが一緒に歌えるようなヴォーカルで、音楽の複雑さを強調させようと考えたのでしょうか?

たぶんね。意図してそうしたわけではないけど。俺は自分が思っていることをしているだけだからね。たぶん音楽がときどき俺を混乱させることがあって、何が一番良いのか見極めるのに手間取ることがあるんだ。3/4拍子の曲とかそんな感じの曲がいいかもって思って、「まあ、このパートは3/4拍子でこういう感じの曲だけど、12拍子ごとに来る、実際には4/4拍子のヴォーカル・パートをやってみようか」と言い出すことがある。俺はそういうのが好きなんだよね。そうすることで、たぶん変拍子が分からないってことを皆に理解させやすいんだ。

最近の人たちは、4/4拍子の音楽を聴くのに慣れているだけじゃなくて、完璧なテンポの音楽を聴くのにも慣れているんだ。このテンポは申し分なく完璧なものだ。ヒップホップからポップ・ミュージック、最近のオルタナティヴ・ミュージックといったすべての音楽が、ドラムビートをプログラム化していて、すべて整然と完璧に設計されている。スネアドラムの音やキックドラムの音の差が全くないんだから。でも君も気づいたように、俺たちはそうじゃない。このプロジェクトは俺が考えるパンクロック・バンドというものを完成させる数学的なプロセスみたいなものさ。でも、パンクロックって何だろう? それは、音楽であると同時にひとつの考え方でもある。ウォクラットは、そういった要素を全部備えていると思う。

─アルバムで繰り広げられているライヴの雰囲気が素晴らしいと思います。3人がひとつの部屋にいる感じが確かに伝わってきます。

まさにその通りだよ。俺たちは音楽を作った。初めてこのバンドに参加した時、俺はこれらの曲を分解して少しずつ演奏する方法を学んだ。曲を理解することができなくて、拍子記号も理解できなかったから、「よし、この曲を理解できた。俺にやらせてくれ」なんて言えなかった。その代わり、曲を少しずつ演奏する方法を学んで、プロ・ツールスを使ってバラバラにレコーディングをしたんだ。ヴォーカルも同じようにやったよ。それから、曲を実際に演奏する方法を学ぶ段階になった時、俺は不安になって「こういう曲ができるベーシストかシンガーを加入させるべきかもしれない」って言った。でも、マティアスとローレンは「いや、君ならできる」って言うから、俺は「それは希望的観測だな。挑戦してみるか」って感じだったよ。

俺たちは何とか演奏できるようになっていったけど、ヴォーカルのレコーディングでスタジオ入りした後、俺はいつも息切れをしてのどを痛めていることに気づいた。音を出すのにかなり苦労していたから、「なあ、曲の音を半音程度下げて、もっと俺が歌いやすいようにするべきだ」って提案した。それで変更を加えたら、かなり楽になって曲を歌えるようになった。その後、俺が考えたのはアルバムのことで、すぐにデモテープを作ることになった。「スタジオに戻って、曲のレコーディングをするべきだ。ベースとドラムを一緒に演奏してから、ギター、ヴォーカルの順に音を入れて1曲ずつ作って、全力で取り組もうぜ」って感じでね。それが俺たちのやったことさ。すごく楽しいよ。最近、こういう風に音楽を録音するのは珍しいから。

Translation by Shizuka De Luca

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