スケートボードのオリンピック種目採用:アンチ・スポーツな若者たちの行き場はどうなる?

しかしオリンピックはアメリカ国内のみならず世界的にも、偉大さのみを尊重する傾向にあるように思える。例えば、過去のオリンピックでウサイン・ボルトと張り合った選手を挙げられる人がいるだろうか?マイケル・フェルプス、ケイティ・レデッキー、シモーネ・マヌエル以外の有力な水泳選手がいったい何人いるだろうか?オリンピック閉会式直後はこれらの質問に答えられたとしても、一年もしない内に忘れられてしまうだろう。しかし陸上、水泳や体操が話題に上がらなくなっても、ボルト、フェルプス、シモーネ・バイルズの名前が忘れられることはない。野球やアメフトなどのメジャーなチームスポーツで活躍するアスリートが、オリンピックでも人気のスターになる。スケートボードが初めてオリンピックに登場して世界中にお披露目された時も、やはり金メダリストだけが賞賛されるのだろうか?芸術面は得点として評価されるのか?スタイルは重視されないのか?勝つことがイコール偉大である、と見なされてしまうのか?

スケートボードの世界では、オリンピック種目となることのスケートボードの将来に与える影響について、さまざまな意見が出ている。スティーヴ・ベラとエリック・コストンが運営する、ロサンゼルスにある民間のインドア・スケートパーク(もちろんプラザスタイル)を中心としたウェブサイト"The Berrics"は、多くのプロスケーターにオリンピック種目になることについて質問しているが、その回答はさまざまだった。ベラ自身は、「4年に1回開催されるひとつのイベントとしか捉えていない。例えばアーチェリーがオリンピック種目になったことで何かしらの影響があったとは思えない。アーチェリー界の人間ではないので実際はどうかわからないが、何かしら変わったはずだ」と述べている。Girl、Nike SB、Fourstarなどがスポンサーに付くプロスケーターのショーン・マルトは、「俺はどんなシチュエーションでも全力でスケートボードに乗り、楽しむだけさ。ストリートで乗って欲しいか?上等だよ。もし俺がオリンピックに出るようなことがあれば、精一杯やって楽しむだけさ。今やっていることをオリンピックに左右されてはいけないと思う。どう思うかは各個人の考え次第さ」と、オリンピックの正式種目への採用を歓迎している。Bakerのプロスケーター、ブレイドン・スザフランスキーは少々違う見方をしている。「スケーターは、社会からの落ちこぼれの集団さ。アスリートなんかじゃない!スケートボードは犯罪さ。スポーツなんかじゃない」。

スケートボードのスピリットを踏襲するメディアとして業界のバイブルとなっているスラッシャー誌の週刊Skatelineショーの中で、ホスト役のゲイリー・ロジャースがこの状況を明快に表現している。「発展していくことには大賛成さ。でも誤解しないでくれよ。スケーターたちには自分の生きたいように生きて欲しいんだ。それは最も難しいけれど、最も素晴らしく美しいことでもあり、そんなスケーターを見ることは楽しいよ。注目されないとつまらない。そのためにはいろいろなやり方があるはずさ」。

その通り。スケートボードは注目されなければならないし、近所の公園でボードに乗る若者たちにもチャンスが与えられるべきだ。しかしスケートボードはいつも、型にはまったスポーツが嫌いで社会からはみ出した若者たちや、アーティストや変わり者の間で人気があった。それは長く美しい拒絶の歴史でもあり、クリエイティブなエネルギーを持つ若く怒りに満ちた若者が今もスケートボードに乗っている。かつてスケートボードは、行き場のない若者たちの持つパワーの格好のはけ口だった。2020年東京オリンピックの聖火が消えた後も、スケートボードはそのような若者たちの選択肢のひとつであり続けるだろうか?もしそうでなくなった時、いったい誰が、或いは何が、取り残された彼らを導くのだろう?


Translation by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE