Black Lives Matterムーヴメントが問う、現代におけるヒップホップの意義とは

一方でクウェリは、問題について言及するラッパーたちにこう警告する。「言いたいことを口にする前に、問題のありかをしっかりと把握するべきだ。感情をぶちまけるだけなら子供にもできる」ロサンゼルス市長と警察長官が行った会見に同席したスヌープとザ・ゲームは、ムーヴメントに参加する一部のメンバーから非難を浴びた。(メンバーのジャスミン・アブドゥラはこう話す。「セレブレティたちの干渉は、我々の運動の意義を損なうだけだ。彼らは我々のコミュニティの支配と分断を企む市長に利用されている」)G・ユニットのラッパー、ヤング・バックが発表した2曲は、暴力行為を煽る内容だとして保守派の人々から非難を浴びた。そのうちのひとつ『ライオット』で、バックは「銃を持ち出し、暴動を起こせ」と呼びかける。「罪のない警官を殺せと言ってるわけじゃない」彼はそう話す。「俺が言いたいのは、どんな手を使ってでも自分の命を守るべきだってことさ」

警察の暴力に対する抗議活動を牽引するディレイ・マッケソンは、問題と向き合うビヨンセの姿勢を賞賛する。「彼女の行動は我々の活動に水を差すことなく、人々の意識の向上に貢献している」彼はそう話す。「彼女がコンサートで犠牲者の名前を列挙したり、ウェブサイトに弁護士のリンクを貼ることで、より多くの人々がこの問題に目を向けるようになる」ディレイはカニエ・ウエストのお気に入りでもある、ヴィック・メンサへの賞賛も惜しまない。シカゴ警察によるラクアン・マクドナルドの殺害をテーマにした『16ショッツ』を6月に発表したメンサは、人々が声を上げるきっかけを作ることがアーティストの役割だとしている。

パブリック・エナミーのチャック・Dは、現在のアメリカ社会はかつてなく大きな問題に直面していると語る。「現在の状況はグランドマスター・フラッシュの『ザ・メッセージ』で描かれた世界そのものさ」彼はそう話す。「"追い詰めないでくれ 俺はすでに崖っぷちなんだ / 正気を保つことで精一杯"メリー・メルがそう歌ったのは30年以上前のことだが、状況は少しも変わっちゃいない。極限まで追い詰められた人々の怒りが、今にも爆発しようとしているんだ」

Translation by Masaaki Yoshida

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE