『フリーホイーリン・ボブ・ディラン』ディラン初の傑作誕生秘話

荘厳(そうごん)でシンプルな歌詞、常識的な正義と平等の実現への切実な願いにつながっていく写実的な問いかけの連打は、まさに前例のないものだった。「この曲で問いかけられる質問に答える方法は、まず尋ねてみることだ」とディランはアルバムのライナーノーツを書いたナット・ヘントフに語っている。「でも多くの人は、まず風を見つける必要があるね」

グロスマンはこの曲のデモを演奏し、クライアントのピーター・ポール&マリーに持ち込んだ。その時のことをピーター・ヤローはこう振り返る。「私はすぐにこう言ったんだ。『これこそが聖なる曲だ』。革新だよ。全く驚くべき曲だ」

ピーター・ポール&マリーは、『フリーホイーリン』発売の3週間後に、『風に吹かれて』をシングルとしてリリース、発売1週目で売り上げ30万枚を達成し、ビルボード・チャートでは最高位2位を記録している。

10月と11月にもレコーディング・セッションが行われたが、ディランはまだこのアルバムの適切な最終形を見定めかねていた。新たな方向性を模索し、フルバンドを伴ってロカビリーの録音に手を出したりしている(ディランが電子音楽に移行する3年も前のことである)。この時期のセッションから、最終的に『フリーホイーリン』に収録されることになった曲は、ミシシッピ・シークスの『コリーナ、コリーナ』のアレンジ曲と、明るい中にも苦々しさのある『くよくよするなよ』だ。これはロトロがイタリア留学の延長を考えていると聞いた後でディランが書いた曲である。

「これはラヴソングではないんだよ」とディランはヘントフに述べている。「自分の気分を良くするためのセリフについての曲なんだ」。

Translation by Kuniaki Takahashi

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