新たな反トランプ・キャンペーンを掲げたヒラリー・クリントンの誤算

金融被害を受けた人々は今回のクリントンの広告騒動に関して、自分の金儲けのために他人の不幸を願うようなドナルド・トランプを、不本意ながらも擁護せざるを得ないだろう。トランプの発言自体は法的にも道義的にも問題がないからであるが、中には「資本主義の道義に反する」と言う人もいるかもしれない。

トランプは、9.11のように回避不可能な大惨事の発生を望んだ訳ではない。金融バブルに関しては、バブルが膨れている時点で不動産価値が過大評価されていたため、既に悲劇は始まっていたと言える。トランプが何を言おうが、バブルは弾けていたのである。

早い段階から不動産市場の異変に気づき、上手い方法で投資した映画『マネー・ショート(原題:The Big Short)』に出てくるトレーダーのように、市場の弱点を突くのは投資家の常套手段である。個人的には、トランプがバブル崩壊で1円も損していないという話は疑わしいと思っているが、もしそれが本当なら道義的云々の話以前に、ただゾッとする。

ゴールドマン・サックスに関しては、ヒラリー・クリントンに3回分の講演料として67万5千ドルを支払ったことが発覚している。

2011年春、上院常設調査小委員会(カール・レビン委員長/ミシガン州)は、ゴールドマン・サックスが金融危機の際、投資家たちに誤情報を流すなどの方法で相場を操作して利益を得ていたとする分厚い調査報告書を提出した。

報告書によると2006年、ドナルド・トランプがバブル崩壊を声高らかに叫んでいたちょうどその年、ゴールドマン・サックスは、住宅市場で60億ドルが焦げ付いていることを認識していた。

しかしその年の終わり、ロイド・ブランクファインCEOやデビッド・ビニアCFOらゴールドマンの幹部は、所有するモーゲージ担保証券をできるだけ減らす方針で進めよう、という結論を出した。

上院の調査委員が発見したひとつの証拠が取り沙汰された。2006年12月末、ゴールドマンのビニアCFOが、部下のモーゲージ担保証券担当責任者に宛てた1本のメールが問題視されている。

「市場はこれまでにない程悲惨な状況に陥ろうとしている。そんな今こそが我々のチャンスだ。積極的に売り抜いて、この危機的状況の中でも優位に立とう」

この、ヒラリー・クリントンの大きな支援者でもある企業幹部の発言内容は、ドナルド・トランプのコメントとまるで同じである。

ひとつの違いは、ドナルド・トランプは自分だけの金儲けのことを言っていた、ということである。一方ゴールドマンの幹部たちは、自社の顧客の資産から利益を得ようとしていた。

Translation by Smokva Tokyo

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