ー当時どのように感じていましたか?別に気にしなかったよ。というのも、俺たちは周囲のミュージシャンたちからはリスペクトされていたからだ。「君らは最高だ」ってボン・ジョヴィに言われたりね。俺たちにとっては賞をもらうことよりも、そういった影響力のあるミュージシャンやアーティストたちからリスペクトされることのほうが重要だったんだ。当時は誰もが俺たちに敬意を表してくれた。「うちの子供たちも君らのファンなんだ」って言われたりね(笑)不思議な気分だったよ。
1987年グラミー賞受賞式でのランDMC(Photo by Ron Galella/WireImage/Getty Images)
ーあなたたちは80年代の音楽シーンに風穴を開けましたが、同時代に活躍したU2やR.E.M.といったロックバンドと比較すれば、その功績が正当に評価されているとは言い難いと思います。
そのとおりだな。俺たちは今でもその状況を変えないといけないと思ってる。自分自身のためだけじゃなく、このジャンルの発展のためにもね。過去に俺はメキシコのロックバンド、モロトフの曲に参加したんだけど、彼らはこう言ってた。「『ウォーク・ディス・ウェイ』のビデオでマイクスタンドをつかんだスティーヴン・タイラーがぶち壊したのはあの部屋の壁だけじゃない。カルチャー、ファッション、黒人と白人の関係、メタルヘッズとパンクス、君らはあらゆるものの境界線を無効化してみせたんだ」
商業的に成功したことで、今はヒップホップが金やセレブのイメージと結びついてしまっていて、本来持っていたカルチャーとしての重要性が忘れられてしまいつつある。壁を壊し、視野を広げ、イノベーションを起こすっていう精神もね。それこそがRUN-D.M.C.が追求したものだったんだ。俺たちはすごく成功していたけど、周囲にはデ・ラ・ソウルのような優れたライバルたちもいた。今のヒップホップのシーンにはそういうのがないと思うんだ。俺たちが86年に自分たちのスタイルを追求していた頃、ラキム、KRSワン、クール・G・ラップ、ポロといったやつらは俺たちを脅かす存在だった。ビッグ・ダディ・ケインが『エイント・ノー・ハーフ・ステッピン』『ロウ』をリリースした時は、俺たちの時代は終わったって思ったもんさ(笑)