ミュージシャンたちの歴史に残る残念なPR戦略・10選

ガース・ブルックスのオルター・エゴ(1999)


カントリー・ミュージックにはポストモダン的な悪ふざけはそぐわない。ガース・ブルックスがオルター・エゴであるクリス・ゲインズを発表したことで窮地に陥ったのも、それが一因なのかもしれない。オーストラリア出身のポップ・シンガー、クリス・ゲインズは、ソウル・パッチ(下唇の下中央にあるパッチのようなヒゲ)を生やした、陰気で不機嫌な架空の人物だ。彼は、映画『The Lamb』の主人公となる予定だったが、この作品は結局実現しなかった。一方でブルックスは、アメリカのテレビ番組『Behind the Music』をまねたモキュメンタリーに出演したり、アルバム『Garth Brooks in...the Life of Chris Gaines』をリリースするなど、思い切った手段に出る。このプロジェクトに彼のファンは途方に暮れた。だがそれ以上に、ブルックスを一躍有名にした気さくで親しみやすい魅力とは程遠い、自己陶酔的で浮世離れした印象を世間に与えてしまった。


50セント、カニエ・ウェストとセールスを巡り対決(2007)

 (Photo by Kevin Winter/Getty Images)

カーティス『50セント』ジャクソンは07年、当時注目の新人だったカニエ・ウェストに勝負を仕掛けたが、失うばかりで得るものは何もなかった。2人は、『カーティス』と『グラデュエーション』のどちらの最新アルバムがセールスで上回るか対決。50セントは、もし負けたらソロとしての活動を中止するとまで宣言し、ローリングストーン誌もカバー・ストーリーでこの話題を取り上げた。結果、25万枚上の大差で『グラデュエーション』が、『カーティス』を打ち負かし、ウェストが圧倒的勝利を収めた。派手なスタントも手伝い、『カーティス』も素晴らしいセールスを記録したが、この敗北は、彼の名声に大きなダメージを与えた。この対決により、50よりイージーのほうが優勢であることがはっきりと示された。そこから彼は失速、第一線の若手の地位から退き、長老の指導者のような役割に落ち着いた。


新曲を自らリークしたバックチェリー(2008)

 (Photo by David Tonge/Getty Images)

「こんなことをやるヤツがいるなんて最低だね、はっきり言って。俺たちはまずファンに新曲を聴いてもらいたかったのに」義憤に駆られた様子のバックチェリーは、08年のプレスリリースでこう言い放った。彼らは発売間近のシングル『トゥー・ドランク…』について、不届きな人間がビットトレントを使い、リリース前にリークしたと訴え、ネット上での海賊行為に激しい怒りをあらわにした。ところが、バンドのマネージャーが、プロモーションのためにリークしたらしいことが後に判明した。バックチェリー、次回はもっと上手く事が運ぶことを祈る。


レディー・ガガのミート・ドレス(2010)
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(Photo:Kevin Mazur/WireImage/Gettyimages)

2010年、レディー・ガガはMTVのビデオ・ミュージック・アワードに生肉でできたドレスで現れ、世界中の嘔吐反応をテストした。度を越した彼女のジューシーな装いは、動物保護団体PETAをはじめとする、さまざまな抗議者から非難を浴び、完全菜食主義者のエレン・デジェネレスに質問攻めにされた。これに対しガガは、ミート・ドレスは、同性愛者に対するアメリカ軍の”don´t-ask- don´t-tell(聞くな、言うな)”ポリシーへの抗議を表明したものだと述べた。生肉と同性愛者解放との関連性は明らかにされておらず、デジェネレスに訊かれた際も、ガガは曖昧な説明しかしなかった。「自分たちの権利のために戦わなければ、私たちはそのうち、自分の骨についた肉程度の権利しか持てなくなるわ」

Translation by Aki Urushihara

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