ビヨンセは、どのように新作『レモネード』で黒人女性の心の声を表現したのか

新作『レモネード」より/身じろぎもせず声も立てず、白い衣装をまとった黒人女性たちが、プランテーションのポーチから私たちを見つめている。

ビヨンセの約2年半ぶり通算6作目となる新作は、歴史を切り開くビジュアル・アルバムで、見るための、そして見られるための新しい作品に仕上がっている。

前作『ビヨンセ』に続き、『レモネード』のテーマは、ビヨンセ・ノウルズが長年にわたり取り組んでいる黒人の南部の地域主義だ。このビジュアル・アルバムは、国家、地域、そしてディアスポラ(故郷を追われた者)の歴史を振り返り、南部ゴシックの伝統の創始者であり正当な継承者として黒人女性を描いている。

「強い」とか「魔法」とかいう言葉を超越し、黒人女性は、過去、現在、未来において、彼女たちを取り巻く肉体的、科学的、精神的世界を変え、そしてそれらを救う錬金術師であり形而上学者であると、『レモネード』は主張する。リアーナは、自分の「輝きを(あなたの汚れを)黄金に変えるために」と使い、エリカ・バドゥは、「仕事を変え、神を変える」ことを男たちに強制し、ジャネール・モネイ演ずるシンディ・メイウェザーは、ひそかにアンドロイド革命を指揮している。しかし、ビヨンセは、黒人女性の錬金術の背後にあるメソッドを説明する。ジャンルや空間を越え、人生がレモンという試練を与えたとき女性はどうするべきかという南部のくだらない妄信を、彼女は根底から変える。(訳注:『When life hands you lemons, make lemonade.』(人生がレモンを与えたら、レモネードを作れ)は、『ピンチをチャンスに変えろ』という意味の慣用句)

必要から生まれた、黒人女性の魔法のひとつは、自分自身を偽る能力だ。外面は率直さを装うことで、自分の内面を守り、ありのままの自分を隠す。ノースウェスタン大学の歴史学者ダーレン・クラーク・ハインが言うところの、この「偽りの文化」を、今も続くジム・クロウ法の壁の後ろで展開する豊かな内面を育て、身体的そして言葉による暴力を交わすために、私たちは活用してきた。

ビヨンセは、黒人女性が「世界のラバ」として最も軽んじられ、無視され、保護されず、どうでもいい存在であるとみなされる社会において、ひとりの黒人女性になる過程について熟考した『レモネード』で、制約に基づくいかなる魔法も否定する。南部の別の清涼飲料、スウィート・ティーの対極(そして時に敵)であると同時におそらく一番の相棒である、レモネードというメタファーを通して、癒し、健全性、そしてより自由な形の自由のために感情の発露を必要とする内なる魔法の別の形を、ビヨンセは主張する。

Translation by Naoko Nozawa

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