「ピーランダーZのメンバーとして、彼らが向き合っているものを描きたかった」イはそう話す。「実際にはリッチなくせに、苦労しながらアートを追求しているふりをしているバンドはたくさんいる。実際に困窮しながらもJポップのスターのように振る舞うピーランダーZは、まさに正真正銘のパンクバンドだと思う。アーティストとしてとことんリアルな彼らを、私たちは心底リスペクトしているんだ」
企画の段階では、パンクロッカーであったレッドが夢を諦め、社会人として働き始めるというくだりが『マッド・タイガー』の大筋となっていた。(映画のタイトルはピーランダーZの曲名にちなんでいる)イはこう話す。「人生の多くを費やしたバンドを辞めて社会に出ようとする男性の物語、それが当初のアイディア だった」
しかし撮影が進むにつれ、共にバンドの歴史を築き上げてきた親友のレッド、そしてドラマーのグリーンという2人の仲間を失ったイエローの思いへと、物語の焦点は移っていった。「誰よりも葛藤しているイエローの胸の内にフォーカスすべきだと提案したのは、エディターのヒサヨ(・クシダ)だった」イはそう話す。「レッドの後任として加入したパープル(アキテル・イトウ)は、誰もが認める優れたベーシストであるにもかかわらず、イエロー は何かが欠けていると感じている。新しい彼女と付き合い始めたものの、元カノへの未練を断ち切れずにいるような、イエローの人間的な部分こそがこの物語の核心になっていったんだ」
『マッド・タイガー』は現在アメリカ各地で劇場公開されており、7月5日からはビデオ・オン・デマンドでの視聴が可能となる。(DVDの発売は7 月12日)本作にはコンサートやリハーサル風景はおろか、ピーランダーZの歴史やその音楽にもほとんど触れていない。イとマイケルの2人はこの作品を、バ ンドのドキュメンタリーというよりもヒューマンドラマとして捉えているという。イはこう話す。「友情によって結ばれていた2人の絆の変化、それこそがこの 物語の要なんだ。ミュージシャンでなくとも共感できる部分がたくさんあると思う」マイケルはこう加える。「僕らはこの作品をピーランダーZのドキュメンタ リーだとは思っていない。幸せになるために、そして愛する人と巡り合うために何をすべきなのか、この物語はそういったことを考えさせてくれるんだ」
イ エローは新メンバーを迎えて新たなスタートを切ったピーランダーZのリーダーとして、現在も精力的に活動を続けている。イによると、本人が映画の内容をど う捉えているかは不明だという。「留守電にメッセージを残してくれていたんだ。『映画を観たよ、気に入った』その一言だけだったから、実際に彼がどう思っ ているのかは私にもわからないんだ(笑)」
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