photo : (Universal/Everett, Universal/Everett, Weinstein Company/Everett)

18世紀の作曲家からヒップホップのレジェンドまで、大小のスクリーンを彩ってきた偉大なミュージシャンたちの物語。

ミュージシャンには、ひそかに俳優業に憧れを抱く者が多い。そして、ミュージシャンになりたいと(わりと大っぴらに)思っている俳優は、ごまんといる。ラッセル・クロウの『サーティー・オッド・フット・オブ・グランツ』やケヴィン・ベーコンの『ザ・ベーコン・ブラザーズ』のように、自分でバンドを始められない俳優たちには、映画で実在の天才ミュージシャンを演じるという手が残されている。主人公が無一文から大金持ちになって、ドラッグにおぼれ、第三幕で死の淵から不死鳥のように復活するようなストーリーなら、しめたものだ。そして、そのドラマティックな映画がアカデミー賞の投票者たちの注目を集めることになれば、願ったり叶ったりだ。しかし、ほとんどの俳優にとって抗しがたい誘惑は、ロックスターやヒップホップのレジェンドやカントリー・アンド・ウェスタンのクルーナー(人気歌手)の大ヒット曲の数々を高らかに歌いあげるチャンスだ。エルヴィスにはなれないかもしれないが、テレビで彼を演じることならできる(エミネムならきっと、少しばかり脚色した自分自身を演じるだろう。それはまた後の話)。

音楽伝記映画は誠実なジャンルで、その人気に陰りは一向に見えない。2015年に公開されたN.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』は、同年の大ヒット作のひとつとなった。そして、2016年4月、3作もの大物ミュージシャンの伝記映画がアメリカで公開された。イーサン・ホークがチャット・ベイカーに扮した傑作『ボーン・トゥ・ビー・ブルー』、ホンキー・トンク・シンガー、ハンク・ウィリアムズのハイ・ロンサムな物語『アイ・ソー・ザ・ライト』、そして、マイルス・デイヴィスの人生のいくつかの時期に焦点を当て自由な視点で描いた、ドン・チードル監督/主演作『マイルス・アヘッド』だ。

それでは、ローリングストーン誌がセレクトした音楽伝記映画の名作を、30位からカウントダウンでお送りしよう。細かい点を考慮して選から漏れた映画もあるが(W・S・ギルバートとアーサー・サリヴァンを描いた傑作映画『トプシー・ターヴィー』は伝記というよりドキュメンタリだし、『ローズ』の主人公のシンガーはジャニス・ジョプリンをモデルにしているが、ジョプリンの伝記とは言えない)、奇妙な符合で選ばれた映画もある(『ラウンド・ミッドナイト』の主人公は、モデルとなったふたりのジャズ・プレイヤーの人生を十分に切り取っていて、事実上ふたりの肖像となっている)。しかし、私たちにとって、この30作品の奏でる調べは、いつまでも色あせることはない。

30位『セレナ』(1997年)

セレナ・キンタニーヤ・ペレスの殺害からわずか2年後に公開された『セレナ』は、『テハーノの女王』をエレガントに神格化している。この伝記映画は、セレナが惜しくも生前に味わえなかったクロスオーバーでの成功を死後に確立しただけでなく、売り出し中の女優だったジェニファー・ロペス(初の主演作となる本作でゴールデン・グローブ賞にノミネート)をスーパースターに押し上げた。実在した歌手の生涯をリアルに描いたというよりも、きれいごとばかりの賛辞といった感はあるが、『セレナ』は、今もなお彼女の死を悼むファンにとっては価値ある記念碑であり、彼女の絶大な影響力を知らない人々にとっては強烈な入門編だ。(DK)

29位『ノトーリアス・B.I.G.』(2009年)

ジョージ・ティルマン・ジュニア監督によるこの優れた伝記映画は、ノトーリアス・B.I.G.が短期間で史上最大のラッパーのひとりに成長し、1997年に銃撃され24歳で非業の死を遂げるまでの克明な記録だ。しかし、小さなディテールに誤りが多すぎる。たとえば、ウォレッタ・ウォレスを演じるアンジェラ・バセットのジャマイカ訛りが怪しいし、ビギーの『ビッグ・ポッパ』が、クアッド・スタジオで2パックが銃撃された忌まわしき1994年11月30日より前にビルボードのラップチャートで1位になったシーンがあるが、実際は順序が逆だ。さらに重要なのは、ラッパーで俳優初挑戦のジャマール・『グレービー』・ウーラードは、ビギーの伝説的なカリスマを醸し出すことには成功しているが、映画全体を引っ張るには力不足だということだ。社交的なショーン・『パフィー』・コムズ役のデレク・ルークやクレイジーな2パック役のアンソニー・マッキーなど、強力な助演陣がウーラードを援護している。リル・キムを演じたナトゥーリ・ノートン(90年代のR&Bグループ3LWの元メンバー)が、魂のこもった熱演でほとんどこの映画をさらっている。(M.R.)

Translation by Naoko Nozawa

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