ブライアン・イーノが語る、カニエ・ウエスト、デヴィッド・ボウイ、そして待望の新作

ブライアン・イーノ、「3次元のサウンド」の追求から生まれた新作『ザ・シップ』について語る


ーなぜ今になってヴェルヴェット・アンダーグラウンドをカヴァーをしたのでしょうか?

あのアルバムは私にとって最も重要な作品のひとつだ。最も好きなポップアルバムはと尋ねられたら、私はあの作品を挙げるだろうね。あのカヴァーをレコーディングしたのは12年ほど前で、それ以来ずっと寝かせていたんだ。ヴォーカル以外のパートをね。当時から気に入ってはいたんだが、発表する機会がなかったんだよ。少し前にイスラエル人の振付師、ホフェッシュ・シェクターのショーを観に行ったんだ。本当に素晴らしいダンス・パフォーマンスで感銘を受けたよ。ショーの終盤で、突然パフォーマンスが止まって、ジョニ・ミッチェルの『青春の光と影』のオーケストラ・バージョンが流れる場面があるんだ。躍動的なダンスの連続から一転して、オーケストラによるスモーキーで温かなサウンドが飛び込んで来るんだよ。まさに静と動のコントラストで、素晴らしいアイディアだと思った。音楽自体も素晴らしいんだが、あの曲を特別なものにしているのは「私は解き放たれる 未だ見ぬ幻に出会うために」という歌詞だと私は思っている。幻の世界から現実へ辿り着こうとするのではなく、ただ幻だけを追い続けるという、本当に美しい一節だ。あのアルバムのフィナーレを飾るにふさわしい曲だよ。

ーヴェルヴェット・アンダーグラウンドを語る上で必ず引用される一節がありますが、それを口にしたのはあなただと言われています。それは真実ですか?

君が話しているのは…

ー「アルバムは3万枚しか売れなかったが…」という一節です。

「その3万人全員がバンドを始めた」というやつだね。あぁ、間違いないよ。ルーに会った時、私は彼にそう話したんだ。

ー当時のあなたにとって、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドはどういった存在だったのでしょうか?

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドを初めて聴いた時、私はアートスクールの学生だった。彼らがいなければ、私がロキシー(・ミュージック)に加わることもなかったはずだ。ロックにアートの概念を持ち込むというアイディアは、彼らの音楽から得たものだからね。私が何よりも嫌っていた商業的成功というものに、彼らはまるで関心がないように思えた。リスナーを楽しませるということを意図的に避けているような彼らに、私はすごく惹かれたんだ。それ以来、私は商業的成功に重点を置かないというスタンスを貫いている。アートスクールに通っていた頃、私は自分がポップミュージシャンになるか、絵描きになるか、それともファイン・アーティストになるべきか決められずにいた。そのすべてに等しく興味があったからね。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドが教えてくれたことのひとつは、物事の間に境界線を設けようとしないということだったんだ。

ーあなたの友人でもあったデヴィッド・ボウイが先日この世を去りましたが、彼の稀有な才能を物語るようなエピソードはありますか?

ヴォーカルに対する彼のアプローチはまさに唯一無二だった。あんなにも深く楽曲を分析するアーティストには出会ったことがないよ。彼はその曲に適したキャラクターのイメージを作り上げ、それに応じて声の質やカラーを変化させた。まるで熟練の俳優のようなアプローチだ。キャラクターのイメージが固まれば、曲の他の要素はおのずと決まっていくんだよ。

ーカニエ・ウエストは最新作を発表して以来、その内容に変更を加え続けています。作品を聞けるプラットフォームをストリーミング・サイトに限定し、内容を変化させ続けるという試みです。言い換えれば、作品は永遠に「未完成」のままだということです。それに似たアプローチとして、あなたは1991年にお蔵入りさせた『マイ・スクエルチー・ライフ』を、翌年に『ナーヴ・ネット』として発表しています。彼の試みについてどうお考えですか?

とてもいいと思うね。4〜5週間前、ロンドン自然史博物館に私の作品を提供したんだが、その2週間後にまったく別の作品に置き換えたんだ(笑)。言うまでもなく、ポスターにはその事実は反映されていない。そこには「音楽:ブライアン・イーノ」あるだけで、どういった内容かは記されていない。完成形のない音楽というものを、私は素晴らしいと思う。弾き手の解釈によってその印象が大きく変化する譜面上の音楽がまさにそうだ。ベートーヴェンの交響曲でも、フルトヴェングラーによるものとサイモン・ラットルによるものを聴き比べれば、まったくの別物だと感じるはずだ。一度世に出たら最後、そういうレコードという形態には魅力もあるが欠点もある。近年私が自身の作品やオリジナルのアプリを通して追求しているのは、常にその形を変化させ続ける「生きた音楽」なんだよ。

Translation by Masaaki Yoshida

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