ウィーザー、リヴァース・クオモの人生哲学

今日、彼は7時頃に起床して夜に見た夢を思い出そうとしたが無理だった。マネージャーから彼が送った新曲(「俺たちは皆バイセクシュアルだ!」という歌詞が入った曲)についてメールの返信が来ているかどうか確認すると、(「クレイジーだ、クレイジーすぎるかも」という)返信が来ていた。

青白く痩せ細った脚でベッドから出てトイレを済ませると、キッチンへ行き、STARBUCKS VIAのインスタント・コーヒーを魔法瓶に振り入れた。そして、植物でいっぱいのジメジメしたガレージ・スタジオへ向かい、25分ほど意識の流れのままに言葉を書き綴り、1時間瞑想を行った。それから、上部にたくさんの穴が開いた迷路が付いている小さな木箱の前に腰かけると、無脂肪のギリシャ・ヨーグルトと固ゆで卵、トレイル・ミックスという、いつもの朝食をとった。

迷路に小さな鋼鉄のボールを入れ、60個ある落とし穴にボールを落とさないようにしながら、ノブで表面のボードを動かしてボールを進路に運んでいった。ラビリンスというこのゲームは、娘へのクリスマス・プレゼントだった。彼女は2回ゲームをしたが、それ以降は毎日彼が遊んでいる。43個目までボールを穴に落とさなかったのが彼の最高記録だ。「かなり進んでいって記録を更新できそうなところに来るまでは落ち着いていられるけど、ボールが穴に落ちた時は叫んでしまうよ」と彼は説明する。彼が昔からそうであったように非常に根気強く、少し頭が混乱した執着しやすいタイプの男だというのだけが理由だとしても、彼がゲームをクリアする日が必ず来ると信じるべきだ。

そして今、彼はバイクに乗ったブロンド美女や、真っ黒に日焼けした物乞いが集まる遊歩道に来ている。「俺たちは1年前に新しいマネージャーを迎えたんだけど、彼から「君たちはビーチ・アルバムを作るべきだ」と言われたんだ。俺たちはザ・ビーチ・ボーイズが大好きでここで暮らしていることを考えると、そのアイデアは刺激的ですごく当然だった。自分たちにとって身近すぎて、今まで気づかなかったよ」。

その結果、現在発売中のウィーザー10枚目のフルアルバムは、クオモとベーシストのスコット・シュライナー、ドラマーのパトリック・ウィルソン、ギタリストのブライアン・ベルが白い砂浜の監視塔の前に並んで立つ姿を写したジャケットが付き、クオモがホワイト・アルバムと呼ぶ作品に仕上がった。音楽的には、初期のウィーザーのようなパワー・ポップに戻った感じがあるが、そうなったのも、その時代への回帰を望んだプロデューサーのジェイク・シンクレアの手腕によるところが大きい。一方、歌詞はクオモがあらゆるところからインスピレーションを得て書いたものである。ツアー中、出会い系アプリのTinderでいろいろな人と知り合ったのもそのひとつだ。といっても、出会い目的ではなく、一緒に出かけたりできる面白い人を見つけ、経験を得るのが目的だが。

彼は、さまざまな海辺のサブカルチャーや、クオモという自身の立場を離れてできる経験を模索するために、今日来ている遊歩道にも訪れた。日の当たらない場所に座りながら、「人々を眺めても、彼らと関わることはできなかった。そういうのはずっと前に諦めたよ。俺は消極的だから」と彼は述べる。それがもし事実だとしても、彼はほぼ全生涯にわたって、それとは正反対にアクティヴな人生を送ってきた。『ブルー・アルバム』で最初に成功を収めた後、ハーバード大学に入学し、そこで左右の足の長さが2インチ近くずれているという先天異常を治す手術を受けた後は、松葉杖で足を引きずって歩き回っていた。数年後、彼は瞑想プログラムに参加するため禁欲生活を誓ったことを公表した。(彼は瞑想が大好きなのだ。)かつて、ペットのヤモリを除いて、基本的に誰とも話さず1年間過ごしたこともあった。ファンとの興味深い関係も保っている。シェークスピア劇の観劇にファンを大勢招待したことがあったが、その一方で、ファンの多くが過去に執着していることを死ぬほど鬱陶しく感じている。

「皆いつも自分のウィーザー・エピソードを話したがるんだ。例えば、中学1年の時に毎朝ホームルームで親友と『ピンカートン』を聴いていた話とかね。できる限り愛想良く答えるよう努めているけど、たいてい愛想良くできないな。そういった交流をもっと楽しい内容に導く方法を切実に求めている。試しに「別の話を聞かせてくれ」と言って話をいきなり切ってみようかと思っているよ」と彼は語る。

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1985年頃、スターダムを夢見る異端児だった10代のリヴァース・クオモ。「80年代は、ロックスターになって女の子に囲まれるのを夢見るのが一般的だったけど、思い通りにはいかなかった」と語る。(Photo by Rivers Cuomo)



もちろん、彼自身のエピソードはそれとは対極的なものだ。コネティカットの僧院で彼を育てるという変わり者の両親の元に生まれ、その隠とん生活は11歳になるまで続き、通っていた公立の学校ではかなりいじめに遭い仲間外れにされていたが、それでもガールフレンドには不自由しないタイプだった(彼は「かなり遅い」と主張するが、童貞を失ったのは17歳の時だった)。最初はプロのサッカー選手になりたかったが、ずれた足と低身長が支障になり始めると、夢をロックスターに切り替え、高校を卒業してすぐにLAに引っ越して夢の実現の準備を始めた。決断力だけが取り柄だったが、「現存する中で最も洗練されたスピード・メタル」という自身のブランドで契約を獲得することができなかったため、そのアプローチを見限り、幼い頃の自分の写真を研究して元の姿に完全に戻った。

Translation by Shizuka De Luca

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