なぜロバート・メイプルソープは人々の記憶に残り続けるのか

マーカス・リザーダールによるロバート・メイプルソープのポートレイト。マーカスは彼のモデルであり、恋人の一人だった。(Marcus Leatherdale/courtesy of HBO)

新たに制作されたドキュメンタリーフィルムにより、この写真家の抱いていた「伝説になりたい」という大きな野心が明らかになった。

ロバート・メイプルソープは重要なアート作品を生み出すよりも前に、まず自分を重んじられるアーティストだと認識していた。1950年代にニューヨークのクイーンズで育ったメイプルソープはそこを逃げ出し、ブルックリンのアートスクールで自分を変える道を模索した。スターダムへと駆け上がる道を見つけるまで、彼はドラッグに手を出した、奇妙な服装の社会的逸脱者にすぎなかった。



ケーブルテレビ局HBOが制作したドキュメンタリー『Mapplethorpe: Look at the Pictures』には全編を通し彼の野心がきらめいている。制作したのはランディー・バーバートとフェントン・ベイリーだ。2人はテレビ番組『ル・ポールのドラァグ・レース』のプロデューサーでもあり、映画『パーティー モンスター』や『The Eyes of Tammy Faye』『Inside Deep Throat』などのドキュメンタリーフィルムで変わり者や逸脱者たちを描いてきた。

メイプルソープのドキュメンタリーは激しい苦闘と興奮状態にある人々、そして何が美であり、何が芸術になりえるのかという疑問を提起し続け、ジェンダーとセクシュアリティが不明確な人々のセンセーショナルなイメージを見たものの心に残す。メイプルソープが初期に撮影したセルフポートレイトー鞭を尻尾に見立てカメラを見つめている作品ーは、見るものを愚弄するようにも、彼の力を予感させるようにも捉えられる。しかし写真として持つ美的な価値以上に、この写真はメイプルソープが過激な写真家から、20世紀後半にコレクターたちの間で最も人気のあったアーティストの一人に見事に変貌をとげたことを物語っている。

このドキュメンタリーフィルムは元上院議員のジェシー・ヘルムズの声から始まる。彼はみんなに「この写真たちを見ろ!」と荒い口調で呼びかける。議員はメイプルソープの作品をポルノだと見なし、彼の展覧会に抗議している。この保守的な政治家が、わいせつだと見なすメイプルソープの作品を指し示し、彼がその数ヶ月前エイズのために42歳で亡くなっているにも関わらず、文化的な闘いを煽ろうとする姿が映し出される。議員の抗議活動はメイプルソープの伝説をより強固にするという徒労に終わり、このドキュメンタリーフィルムは彼の評価をより輝かしいものにしている。

Translation by Yoko Nagasaka

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