「ヒラリー・クリントンを大統領に」:ローリングストーン誌創刊編集長ヤン・S・ウェナーが語る大統領選

Illustration by Roberto Parada

「私にとって理想主義と誠実さはきわめて重要な資質だが、同時に強く戦うことを知っている経験豊富な人であってもほしい」


ローリングストーン誌は、ヒラリー・クリントンを大統領に推す。
創刊者兼編集長 ヤン・S・ウェナーが理由を説明する。


バーニー・サンダースを好きにならないことは難しい。天分豊かで雄弁な政治家であることは実証済みだ。大銀行がアメリカ経済と数多の人々の生活に引き起こした損害について、サンダースは深い怒りをありのままに表している。彼は明らかに、今の社会の仕組みに割を食わされていると思っている人々のために発言している。また、この国の所得格差がどれほどひどく度を超しているかをはっきりと示し、悪人たちが跋扈し続けていることを私たちに忘れさせまいとしている。


私はこの2カ月間、討論会や集会の模様を追っているが、サンダースの正しさにノックアウトされている。私の心は彼に引き付けられている。サンダースは「オキュパイ・ウォールストリート」(ウォール街占拠運動)を予備選挙の票に結びつけた。

しかし、「怒りの候補者」であるだけでは立ちゆかない。怒りと計画は別物だ。怒りは、力をもつ理由にも、希望の理由にもならない。怒りは有権者の多数を動かすには幅が狭すぎ、政治指導者としての能力と経験の証しにもならない。私の見るところ、極端な経済的格差、つまり富の再分配が上位1%──実際には上位0.01%──の最富裕層に大きく偏っていることが、この時代の決定的な問題だ。この問題の中に、社会的不公正のほぼすべての問題を見ることができる。その最たるものが気候変動で、この問題はつまるところ、石油、石炭、ダーティーなエネルギーを保有する少数の大資本家と、その利用によって利益を得ている人々に対する人類の権利ということになる。

ヒラリー・クリントンは、政策と戦術とトレードオフを駆使して目的を達することにすばらしい能力をもっている。すべての問題を億万長者たちのせいにするのはたやすいのだが、ではそれにどう対処するのかはまったくの別問題だ。サンダースは25年間の議員生活を通じて妥協なき理念を貫いているが、そのアウトサイダーとしてのスタンスは民主党員の支持を引き付けていない。ポール・クルーグマンは、サンダース・ムーブメントには「妥協への軽蔑」があると書いている。

政策構想に対する議会と既得権層の壁をどうやって突破する考えなのかと問われるたびに、サンダースは、自分を大統領に導く「政治的革命」が壮大な挑戦に魔法のような力を発揮することになると応じている。これは今のアメリカの現実を無視した、あやふやで不誠実な考え方だ。バーモント州選出の民主社会主義者の上院議員としてサンダースが築いたのは、狭い権力基盤と限られた政治的連携にすぎず、それでどうやって深く根を下ろした既得権層の力と戦うことができるのか。


私は革命の中に身を置いたことがある。今、革命など起きていない。

Translation by Mamoru Nagai

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