ジョン・ケイルが語る、ルー・リードと『Music for a New Society』


あの頃の音楽を再び演奏するのはどんな気分ですか。





少しアレンジをやったくらいで、まだ始めてもいないんだ。これまでとは違うバージョンで演奏するつもりだ。





ヴィオラにはまたギターの弦を張りますか。





いやいや、そんなことをする必要はない。ギターの弦は、ラ・モンテ・ヤングの曲(ヴェルヴェット・アンダーグラウンド以前の楽曲)を演奏するのに必要だったのであって、ヴィオラには普通の古い弦が張ってあるよ。もともとは、ギターの弦の後、マンドリンの弦やマンドーラの弦も使ってみたんだ。弦の太さが重要だったんだ。弦をぴんと張って、楽器を歪めようとしていたんだからね。最後には、弦をはじけなくて、チェロ用の弓を使わないといけなくなった。





ヴェルヴェット・アンダーグラウンドや『Music for a New Society』など、昔の曲のことをずっと考えておられますが、自分のレガシーのことを考えたりしますか。





ああ、そんな風には考えられないよ。というか、もう自分の死亡記事を準備しないといけないかね。勘弁してくれよ。





『Music for a New Society』で、かつてとは見方が変わった曲はどれですか。





1つは『Changes Made』だ。シングル曲を作っておきたくて、この曲にはブリッジを追加したから、本当に良い曲になったと思っている。『Close Watch』にはたくさんのバージョン違いがある。あと、もう新曲を生み出すことは無理だろうと思っていたんだが、それでもピアノの前に座るとグルーヴが湧いてきて、変化が出てくる。アンバー(・コフマン)のような人も入ってくると、自分が曲中の幽霊になったような気がしてくる。すると突然、曲の中で会話が始まったりもする。





アンバー・コフマンとはどのようなきっかけで知り合ったのですか。





私は前からダーティー・プロジェクターズのファンでね。『Close Watch』で私はヴォコーダーを使っているんだが、ヴォコーダーは時々マイクロトーン(微分音)を作り出すんだ。私はそれをアンバーに歌ってほしくてね。彼女がマイクロトーンを歌えないと嫌だなあと思っていたんだけど、驚いた。完ぺきだった。








『Close Watch』は、ジョニー・キャッシュの『ウォーク・ザ・ライン』を元に作られたとされていて、もともとはあなたの1975年のアルバム『Helen of Troy』に収録されていたものです。キャッシュの歌詞を採り上げた理由は?





わからん。そういう曲はいくつかある。(1975年の『Slow Dazzle』収録の)『I’m Not the Loving Kind』もそうだ。詳しくは思えていない。昔の話すぎる。





『Music for a New Society』のもともとの意図は、音楽の将来を想像することでした。今回、その課題にはどのようにアプローチしたのですか。





当時の関心は、アルバムの中にどれだけたくさんの登場人物を詰め込むかということだった。ところが、今振り返って見れば、似たような登場人物がずいぶんいるように見える。閉所恐怖症というのは、こうした矛盾したアイデアに起因している。新作では、あまりうまくできていないと思う部分の作業をした。かつてそこには強力なアイデアがあったのだけれど、今ではそれを無視して、成り行きに任せることができるようになった。それでも、どうしても修正する必要があるものもあった。たとえば『Sanctus』にはもっとドライヴ感が必要だった。原曲はオペラ的だったんだ。





あなたの母親はどんな方ですか。





高校教師だった。ウェールズの教育当局に勤めていて、実験的な教育プログラムに関わっていた。新しいアイデアを試す係だね。他人に対しては辛抱強い人だった。いろんなやり方を教えるのがうまかった。良き母親の典型例だったよ。





母親はあなたの音楽が好きでしたか。





聞いてみたことがないなあ(笑)。(1977年に)私が鶏の頭を切り落とした時のコンサートには来てくれた。その後両親がBBCのインタヴューを受けていた。あれは面白かった。BBCが両親にスポットライトを当てようとしてね。「息子さんが鶏にしたことをどう思いますか」なんて質問をしてさあ。父は偉大な人だ。でも、彼らにどう思っているのかを尋ねてみたことはないと思う。もう互い時折しか会わないから、ただ一緒に時間を過ごす方が大事に思えてね。





最近あなたは、『M:FANS』が完成する頃には、オリジナル・アルバムの登場人物全員にウンザリするだろうと語っておられます。それはなぜですか。





救いがたい常習犯ばかりだからだよ。





もっとも疎ましい登場人物は誰ですか。





『Taking Your Life in Your Hands』に出てくる男かな。母性ということに対する共感にまるで欠けている。このアルバムでは女性はとても難しい立場に立たされている。とらわれているのに、その理由を尋ねてこない。大変興味深いペルソナだ。説得されて問題解決に励んでいるようでいて、実は何もしていないんだ。





これらの曲を作り替えてみて、カタルシスは感じましたか。





ああ、驚くほどにね。一部の曲の美しさは驚異的だよ。たとえば『Broken Bird』は本当に情熱的な曲だ。録音を進めるにつれて、ドンドン情熱的になっていく。興味深いことだよ。





『Music for a New Society』を振り返って、この作品はあなたのディスコグラフィの中でどんな位置づけになるでしょう。





このアルバムは、自分がやろうとしたことができたという作品だった。時を超えて作品が愛されていることはとてもうれしい。本当に良い作品だし、キツイ作品だった。新作はそのことを踏まえて作られている。





別のアルバムでも今回のような作業をしてみたいですか。





それはない。歴史の興味深い活用方法ではあるけどね。

Translation by Kuniaki Takahashi

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