ジェフ・バックリィ、秘蔵音源アルバム発売の全貌に迫る

セッションの3日前にベルコウィッツがシェルター・アイランドの予定を抑えるまで、アダボはバックリィのことを何も知らなかったという。「彼がどんなアーティストなのか、本当に一切知らなかったんだ」アダボは苦笑しながらそう話す。「スティーヴの指示はシンプルだった。『ただマイクを立てて、あとは彼に好きなように演奏させる。何の指示も出すつもりはないから、ただ彼がリラックスして演奏に集中できるようにしてやってくれ』」

「デビューアルバムを手がけるのには慣れていた」アダボはそう話す。「過去にスザンヌ・ヴェガやショーン・コルヴィンのデビュー作を共同プロデュースした経験があった私は、アーティストにプレッシャーを与えない環境を作る方法は心得ていた。ヘッドフォンで聴く音にナイスなリヴァーブがかけてやるだけでいいんだ。そういうリラックスしたムードだっただけに、彼が歌い始めた瞬間の衝撃は今でも忘れられないよ」

セッション初日、開始当初こそぎこちない様子だったものの、バックリィは徐々に本来の魅力を発揮し始めたという。「セッションの初日は、納得のいくテイクが録れるまで数回レコーディングしないといけなかった」アダボはそう話す。「でも一旦その場の雰囲気に慣れると、彼はすべて1テイクで終わらせるようになった。我々がパーフェクトなテイクを求めているのではなく、彼に進むべき方向を見出させようとしていることが伝わったんだろうね。彼がレコーディングを楽しんでいるのがよくわかったよ」

「彼は事前にリストアップしていた12〜13曲を、すべて初日に録り終えたんだ」ベルコウィッツはそう話す。「しかし私は、彼がまだ本当の実力を発揮していないと感じていた。クラブで演奏しているときの彼のパフォーマンスには程遠かったからね。まだステージ上のようにリラックスすることができずにいたんだろう」

「彼がレコーディングを終えようとしたとき、私はこう言ったんだ、『いや、まだ終わりじゃない。君はいろんな音楽を知っているようだが、アイズレー・ブラザーズの曲はどうだ?カーティス・メイフィールドは?スライ(&ザ・ファミリー・ストーン)は?』すると彼は『エヴリデイ・ピープル』のリフを弾き始めてこう言ったんだ。「これしか知らないんだけど…」それからスタジオにいた人間が歌詞を紙に記して、あの曲をレコーディングしたんだ。本作に収録されているのはその3テイク目で、生き生きと歌い上げる彼を前に、私は彼がやっと本当の実力を発揮し始めたと感じた。その後の2日間は、よりリラックスしたムードの中でレコーディングすることができたよ。時々コーヒーやビールを飲んだりしながらね」

Translation by Masaaki Yoshida

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