2016年アカデミー賞で分かった10のこと

3.知名度の低い役者、規模の小さい作品に脚光

ロッキー・バルボアは映画における究極の敗者かもしれないが、シルヴェスター・スタローンは助演男優賞の受賞に大きな期待がかかっていた。つまり、尊敬すべきイギリス人舞台俳優マーク・ライランスが、ソフトな語り口のロシア人スパイ役で素晴らしい演技を見せた『ブリッジ・オブ・スパイ』で受賞をさらったとき、今年のオスカーは知名度の低いノミニーたちに光があてられるだろうことを早くも暗示していたのだ。このテーマは、授賞式を通じて一貫していた。新興配給会社A24が3つのトロフィーを獲得し、名の通った会社を相手に渡り合えることを示したばかりか、製作費わずか1500万ドルのセクシーなロボット映画『エクス・マキナ』が、視覚効果賞で『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』を破るという、今年の授賞式いちばんの大波乱を巻き起こしたのである。

4.予習はしておくに越したことはない

オスカーを受賞したサム・スミスにとって、この夜はそれほど完璧とは言えなかった。確かに、『007 スペクター』の主題歌『Writing’s on the Wall』を授賞式で歌ったスミスのパフォーマンスに非の打ち所はなかったが、この曲自体、主題歌賞の候補のなかでは最も勝ち目がないと思われた。レイプ被害者たちへ捧げたレディー・ガガによる圧巻のステージの後に、スミスが受賞したことも決まりが悪かった要因だ。しかし、スミスは自らさらに追い討ちをかけてしまった。イアン・マッケランの言葉を無邪気にも間違って引用し、スミスは自分が同性愛者を公言している者として初めてオスカーを受賞したとほのめかしたのである(偉大なるマッケランの言葉は実のところ、演技部門に限ってという意味だった)。このうっかりミスにより、喜びの受賞コメントはややバツの悪い自己顕示的な印象を与えてしまった。そして、このスターになりたてのオスカー受賞者は、『ミルク』のアカデミー賞脚本家ダスティン・ランス・ブラックのようなカミングアウトしている人たちから噛み付かれるという、好奇心をそそる仕返しにあったのである。

5.「ジャンル」映画は、もはや鬼門ではない

かつて、ジャンル的要素を盛り込んだ映画のほとんどは、アカデミー賞にふさわしくないと考えられていた(もしくは大抵の場合、そもそも検討さえされなかった)。やがてCGの隆盛により、確実に考慮の対象に入るようになった。転換点となったのは、『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』が2003年、アカデミー賞11部門を制したときだ。お堅い作品とは言えない映画が正統派作品のなかから栄冠をつかむのは、喜ばしい驚きだった。実際、授賞式の幕開けから『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は全部門、圧勝するかの勢いだった。ジョージ・ミラー監督が終末世界の狂乱を描いたこの傑作は、アカデミー賞6部門を奪取。授賞式の後半では、暴力満載のウェスタン映画『ヘイトフル・エイト』のエンニオ・モリコーネが作曲賞を受賞、非情なSF映画『エクス・マキナ』は視覚効果賞を受賞した。

Translation by Sayaka Honma

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