アメリカ大統領選、矛盾だらけの予備選方式

順位付け投票にすれば、現状の予備選挙よりもシンプルで包摂性も高まる (Photo: Paul Sancya/AP)

予備選挙は有権者よりも党を優先するおかしな仕組みだ

サウスカロライナ州とネバダ州の予備選挙・党員集会が終わり、先日、スーパーチューズデー迎えた。スーパーチューズデーと呼ばれるようになったのはアメリカ建国200周年を迎えた1976年のことで、民主・共和両党の大統領候補指名獲得レースが力を競うスポーツの決戦さながらの響きをもつようになった。その大統領選が始まったわけだが、すでに現時点で少なくとも1つの結論が下せそうだ。その結論とは、建国の父たちが「選挙人団」制度を考案して以来、二大政党の予備選挙はアメリカの民主主義に押し付けられた最大のペテンと化している、ということだ。

予備選挙という制度によって、アメリカの政治システムでは二大政党の重要性が固められている。この重要性は不当なものであり、集会の自由という点は別にして、合衆国憲法に根拠があるわけでもない。民主党員と共和党員によって選ばれた最も適格な大統領候補が一般投票で対決する、というのは見せかけでしかない。かりに民主党員と共和党員の間に大きな違いがあるとしても、彼らは結託して国を欺いている。予備選挙のプロセスは複雑怪奇で非民主的、非アメリカ的、そして非効率的だ。

予備選挙の最大の問題は、有権者よりも党が優先される点にある。ボストン・グローブ紙の論説委員エバン・ホロウィッツは、予備選挙の投票者は実際には党の候補者を選ぶ権限をもっていないと嘆じている。「有権者が勝者を決める憲法上の権利をもっていない」。そのとおりなのだが、もっと大きな問題が看過されている。それは、そもそも政党が関与することは憲法に規定されていない、という点である。

政党とは、入会の基準がきわめて低い私的なクラブにすぎない。ベジタリアンの共産主義者が牧畜の盛んな州で共和党員になるよりも、ボウリングの初級者がリーグ戦に参加させてもらうほうが難しい。

現在の予備選挙には、国民選挙の要素そのものはすべて備わっている。それというのも過去100年を通じて、あらゆるレベルで自治体政府が選挙の実施に関わり、買収を監視し、費用の大部分を負担するようになったからである。全体のシステムは、州単位で政府と両党が独自のルールを作ったものの寄せ集めだ。政府が関与を始めたのは善良な意図からだった。党幹部が石油や宝石をやり取りしながら密室で候補者を決めてしまわないように、一般党員に一定の発言力をもたせるという考えである。

しかし、その結果として不条理な仕組みが生まれてしまった。「制限予備選挙」──民主党の予備選挙には民主党員だけ、共和党の予備選挙には共和党員だけしか投票できない方式──になっている11州では、無党派層や他党の支持者が投票から閉め出されている。インディペンデント・ボーター・ネットワークの推計によると、ニュージャージー州の納税者は2000〜13年の間に予備選挙の費用として1億ドルを負担している。要するにニュージャージー州やニューヨーク州、ペンシルべニア州などの無党派層の有権者は、自分が投票すらできない選挙にお金を出しているのだ。

Translation by Kayoko Uchiyama / Edit by Mamoru Nagai

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