映画史に残るボウイのサウンド&ヴィジョン12選

Photo: (Harrison Funk/Zuma/Corbis)

映画シーンにおけるデヴィッド・ボウイのベスト・セレクション

映画界へのデヴィッド・ボウイの貢献は極めて重要であり、これまでも何度も取り上げられている。だが、ポップ・カルチャーという視点から見ると、これまでにボウイ自身が出演した映画に限定するにはもったない。ジギ―・スターダスト、シン・ホワイト・デューク、アラジン・セインなど、無限に広がる彼のキャラクターは、40年以上にわたり我々の人生のサウンドトラックを提供し続けてくれた。そして、それにとどまらず映画のサウンドトラックにも時折登場している。スペース・オペラから中世の騎士物語まで、多種多様な作品で、ボウイの歌が不自然に感じられたことはこれまで一度もない。彼の音楽はそれを書いた男と同じくらい柔順で、説明し難い力を持っている。

ボウイの音楽が映画を損なうことはまずないだろう。たとえそれが映画と調和しない曲であっても、彼の歌によって作品は輝きを増すのだ。だが残念なことに、ボウイは活動期間の大半において、他のアーティストに自身の曲を貸すのを嫌った。分からない話ではない。しかし90年代に入ると、「世界を売った男」は音楽の使用を許可する最も賢い方法を見出し、態度を軟化させた。テクノロジーにより音楽業界は再構築を余儀なくされ、著作権法の価値は消滅すると予見したボウイは、「著述業と知的所有権はバッシングを受けそうだ」と考え、その道を回避したのだ。結果として、ここ20年でボウイの声に彩られる映画の数は急増した。

それでは、この20年間を中心に(『ラスト・フォー・ライフ』など、作曲のみで彼が歌っていないものは候補から除外した)、映画史に残るボウイのベスト・サウンド&ヴィジョンを紹介しよう。

『イングロリアス・バスターズ 』(『キャット・ピープル』)
クエンティン・タランティーノは、劇中に使用する音楽へのこだわりが強いことで有名だが、数ある中でもボウイの音楽を使用したこのシーンは、選り抜きの一つと言えるだろう。09年に公開された『イングロリアス・バスターズ』は、第二次世界大戦期を舞台にした歴史修正主義的な作品だ。『キャット・ピープル(Putting Out Fire)』は魅惑的なドラムとシンセサイザの音色と共に、激しいクライマックスを効果的に盛り上げている。もともとは、ポール・シュレイダー監督の依頼で、82年公開の怪奇映画のために作った楽曲である。本作では、ナチスドイツの最後の夜に、ユダヤ人の映画館主のショシャナ(メラニ―・ロラン)が窓から夕闇を見つめるシーンに使われている。曲の歌詞(僕は愛の炎を消そうとしている/ガソリンで)は、その夜に彼女がヒトラーに対し何を企てているかを暗示しているようだ。歴史を学んだ者として、ショシャナの計画は失敗に終わるに違いないと思うのだが、彼女もボウイと同様、自身が描く将来しか目に入らないようだ。

『ライフ・アクアティック』 (『火星の生活』)





ウェス・ アンダーソン監督の4作目となる海底記録映画は、デヴィッド・ボウイのチューンに乗って、まさに泳いでいるようだ。挿入曲のほぼ全てをブラジルのミュージシャン、セウ・ジョルジ歌いあげているが、2曲はジョルジのアコースティック・カバーに代わり、ボウイ本人が歌っている。アンダーソン監督はロイヤルティーに見合う重要な場面でこれらの曲を使用した。輝かしいラストシーンでは『クイーン・ビッチ』が流れ、映画は高揚感と共に幕を閉じる。だがそれより更に効果的に使われているのが、『火星の生活』だ。海洋探検家、スティーヴ・ズィスー(ビル・マーレイ)が船首に立ち、自分に息子がいるという衝撃的な事実を知らされる場面で、彼は静かに事実を受け入れるが、内心はどれほど動揺しているかをこの曲が表現しているのだ。

Translation by Aki Urushihara

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