ファレルが心酔するレトロ・ソウルアーティスト『ライオン・ベイブ』とは

ハーヴィの子供の頃の夢は、ダンサーとしてアルビン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターに入学することだった。「ダンサーを志すのなら、金持ちになるという考えは捨てるようにと言われたわ」ハーヴィはそう話す。「それでも、憧れのニューヨークシティでの生活はすごく楽しかった」ニュー・スクールに入学したハーヴィはモダン/コンテンポラリーダンスを専攻し、学校の外ではワシントン・スクエア・パークの近くにあったジャドソン・チャーチでのムーヴメント・リサーチ・セッションに参加し、エクスペリメンタルなダンスを追求していたという。「学校では身体の動かし方についてたくさん学んだわ。ある姿勢から別の姿勢へのスムーズな流れとかね」その経験は、ライオン・ベイブの個性的なステージパフォーマンスに生かされていると彼女は話す。「私は直感に従うのが好きなの。毎晩同じルーティーンを繰り返すだけじゃ、オーディエンスとひとつになることはできないもの」

『ビギン』はポインター・シスターズのエネルギーとティンバランドのセックスアピールをミックスしたような、異形のソウル/ポップアルバムだ。シングル曲『ウェア・ドゥ・ウィ・ゴー』でのハーヴィはドナ・サマーを思わせる一方で、アルバム中唯一のバラード『リトル・ドリーマー』では、手にした自由を祝福するかのように歌声を響かせる。同曲でグッドマンはターンテーブルをギターに持ち替え、切ないマイナー調のメロディを奏でてみせる。老いていくことへの複雑な思いを綴ったその曲のトーンは決して軽いものではない。『リトル・ドリーマー』は、ハーヴィが約3年前に妹のサシャのことを思い浮かべながら書いた曲だ。ふたりは現在でもフェイスタイムやスナップチャットで頻繁に連絡を取り合っているという。「彼女くらいの年齢だった頃の私の写真を送って、こう伝えようと思ってるの。『あなたはきっと素敵な大人の女性になる』」

チャイナタウンにある行きつけのラーメン屋では、誰もハーヴィとグッドマンを有名人として扱ったりはしない。すっかり顔なじみになったウェイターはふたりの注文を聞くことなく、「いつものやつ」を出してくれるという。しかし、彼らがそんな風に羽を伸ばせる場所はこれから少なくなるかもしれない。ロキシー・ホテルで行われた『ビギン』のリスニングパーティで『リトル・ドリーマー』が流れた時、大切なものを決して失わないようにという妹に捧げた彼女のメッセージは、暗がりの中に放たれた一筋の光のように響き渡った。


Translation by Masaaki Yoshida

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