3位『時計じかけのオレンジ』(71)
公開当時は非難の嵐にさらされ、特にスタンリー・キューブリック監督が拠点としていたイギリスでは、監督自ら上映中止を要請する事態になったが、現代の同様にモラルを失ったディストピアが舞台の映画に比べれば、『時計じかけのオレンジ』はむしろおとなしく感じる。だが本作にあって、のちの作品にないもの、それは「愉快さ」だ。アンソニー・バージェスの62年の同名小説を映画化した『時計じかけのオレンジ』は、不良集団「ドルーグ」のアレックスを演じたマルコム・マクダウェルの奔放でやんちゃな魅力も相まって、順応主義と圧政がいかに人間の精神を壊していくかを、全編を通した苦いユーモアと知性をもって描き出す。そこに込められた真摯なメッセージがあるからこそ、笑劇の体裁をとることが可能になったとも言える。『時計じかけのオレンジ』は、どこまでも憎めないろくでなしが主人公の暗い訓話なのだ。(TG)


2位 『地球に落ちて来た男』(76)
70年代が進むにつれ、SFというジャンルも比喩表現を通して洗練され、おとなしくなっていった。一方で、ニコラス・ローグは、他者や時代の潮流などいっさい関係ないところで、ウォルター・テヴィスの同名小説を下敷きにどこまでも独創的な映画を作り上げた。干ばつ状態にある母星を救うため、地球に落ちて来た赤毛の宇宙人トーマス・ジェローム・ニュートンを演じるのは故デヴィッド・ボウイ。地球よりも文明の進んだ星から来たトーマスは、その知識と技術を生かした特許で大金を稼ぐことに成功する。だが、やがてひょろりとしたアンドロギュヌスのような宇宙人は、魅力的なエレベーター係(キャンディ・クラーク)と出会ったり、延々と垂れ流されるアメリカのテレビ番組に魅了されたり、すっかり気を散らされてミッションの遂行に困難をきたすようになる。ローグにとって、孤独や倦怠は単にクレヨンの箱を構成する色ではない。それは、痛ましいほどに重大な精神状態であり、存在理由である。そう、あの宇宙人は間違いなくあなた自身なのだ。(EH)


1位 『エイリアン』(79)
たとえば『ジョーズ』の、サメが姿を現わす決定的瞬間にいたるまでの長い焦らしを別にすれば、この地球外生命体ホラーのあるひとつのシーンに向かって、リドリー・スコット監督が恐怖と期待を高めていくその見事な手腕は、ほかの70年代映画の追随を許さない(何度観ても、ケインの腹を突き破ってエイリアンが飛び出してくるシーンには深く心を乱される)。「あのシーン」にたどり着くまでの『エイリアン』は、基本的に宇宙を舞台にした優れた職場ドラマであり、密室スリラーである。それがやがて、宇宙空間に放たれた幽霊屋敷ホラーへと変貌し、狭苦しい場所で展開されるアクションに、観る者はほとんど耐えがたいほどの緊張感を覚えることになる。かつて、映画で描かれる宇宙は驚異と冒険、好奇心の源だった。『エイリアン』以降、宇宙には悪夢のキャンバスという一面が加わった。宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。(TG)


Translation by Mari Kiyomiya

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