音楽史上最高のプログレ・ロック・アルバム50選

25. マーズ・ヴォルタ『ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム』(2003年)

「俺たちの音楽を聴くには、あなたが日常生活から少なくとも1時間抜け出し、完全なる静寂のなかで完全な献身が必要とされる」と、マーズ・ヴォルタのヴォーカル、セドリック・ビクスラー・ザヴァラは以前こう宣言した。1時間(と51秒)を半禁欲状態で聴いたとしても、このテキサスの変人たちにとっての初のフルアルバム『ディラウズド・イン・ザ・コーマトリアム』で表現されたねじれ切った宇宙を解明することができる。マーズ・ヴォルタはビクスラー・ザヴァラと名ギタリストのオマー・ロドリゲス・ロペスによるアートロック・プロジェクトであるアット・ザ・ドライヴ‐インというバンドの皮肉な残骸から誕生し、意気揚々としたメタルやサイケデリック・ロック、ラテンジャズなどを興奮しながら混ぜ合わせた。モルフィネや殺鼠剤を過剰摂取した末に昏睡状態に陥った男について歌うような大概グロテスクな歌詞はロドリゲス・ロペスの極端に卓越した才能と何度も反発しつつも、互いが調和するようにまとめられている。リック・ルービンのプロデュースによる本アルバムは、ベーシストのピンチ・ヒッターを務めたフリーによる安っぽい轟音と現在はクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジのドラマーであるジョン・セオドアが叩き出す燃えるように激しいドラム演奏も特色のひとつだ。ヘリコプター音のような間奏が特徴の「サイカトリズ ESP」の12分半は、21世紀のプログレの本質が今まで以上に規格外になれることを示すものである。by R.F.

24. マグマ『呪われし地球人たちへ』(1973年)

フランス出身のドラマーで作曲家のクリスチャン・ヴァンデは、文字どおり新しい音楽言語「コバイア語」(彼が考案した惑星から名づけられた)をマグマとともに作り出した。そしてマニアックなオペラやジョン・コルトレーンの影響を受けたジャズ、雷のようなアヴァン・ロック、地球外文明のような詩的なテーマを融合させ「zeuhl(ズール)」として有名な独自のジャンルを形成した。ヴァンデはマグマのサード・アルバムで甲高い声の合唱と巧妙な拍子記号を連発させる狂気という彼独自のブランドを完成させ、ローリングストーン誌フランス版が選ぶ、最も優れたフランスのロック・アルバム100枚において33位にランクインした。『呪われし地球人たちへ』が行う広範囲にわたる探検は、基本的には最も純粋な「プログレ」の形でありながら、従来のロックの構造を新しい未知の領域へと発展させている。だがヴァンデはそういった定義づけをいっさい認めない。「“ズール”という音楽は“振動する音楽”という意味だ」と今年、ビッグ・テイクオーバー誌に語った。「ズールがプログレという部分的なカテゴリーに入らないことは確かだ。そしてマグマもプログレ・バンドではない。マグマは一組織である」。by R.R.

23. タンジェリン・ドリーム『フェードラ』(1974年)

ドイツの実験主義者タンジェリン・ドリーム(TD)は、この初期のプログレッシヴ・エレクトロの代表作を構成するためにより構造的なアプローチに重きを置いていた。それは適切に音を奏でるのに1日に何時間も要するモーグ・シンセを入手したばかりのバンドにとって不可欠な戦術だった。『フェードラ』はかなり苦しい状況下でレコーディングが行われた(「厳密には上手くいかない恐れのあったすべてのことが実際に上手くいかなかった」と、TDの創設メンバー、エドガー・フローゼは後に振り返った)にもかかわらず、結果は素晴らしいものになった。特に偶然フルートやメロトロン、ベース・シーケンサー、ホワイト・ノイズと一緒に録音したモーグ・シンセの音を重ねて作った17分にわたる幻覚を感じさせるような表題曲は、マシンがヒートアップするうちにチューニングが失われていくモーグのオシレーターによって星と星との間を漂うような付随的な価値を生み出した。挑戦的でまるで異世界のもののような、言葉で説明できないほど美しい『フェードラ』はリリース後数十年にわたり、環境音楽やエレクトロジャンルのアーティストに重大な影響を与えてきた。by D.E.

22. ラッシュ『西暦2112年』(1976年)

ラッシュの4枚目のアルバムに収録されたレコードの1面を費やすほど長い表題曲よりも「プログレ」の原型に近い作品はほとんど存在しない。7部構成で20分にわたる「2112」は、もちろん、この曲がどんなに激しいロックであるかということを考慮すると皮肉っぽい話だが、ロックが禁止されたジョージ・オーウェルふうのディストピアが舞台となっている。一方アルバムのB面はそれぞれ特徴が異なる5曲に分かれている(「パッセージ・トゥ・バンコック」の「おい、俺たちは徹底的に麻薬を吸うぞ」という旅行談が目玉である)。だがA面の持続力があまりに強いので、たとえ続くB面がイッカク(北極圏に生息するクジラの一種)の発情期の鳴き声だけだとしても、このアルバムはマルチ・プラチナムのヒット作になっただろう。ラッシュのキャリアにおいて重要な岐路に立っていた時(前作の売り上げがカナダのアルバム・チャートで60位という行き詰った状況下)にレコーディングされた『西暦2112年』は、トロント出身のパワートリオである彼らにとって初のヒット作となり、ドラマーのニール・パートが叩き出すリズムが迷宮のように複雑で、ゲディ・リーの声もかなり独特であるにもかかわらず、彼らの商業的な可能性を紛れもなく確約するものでもあった。by D.E.

21. キャメル『蜃気楼』(1974年)

キャメルの代表作はプログレッシヴ・ロックのなかで独特な地位を占め、流れるようにゆったりとしたアンサンブルで作られた音楽が特徴で、ジェネシスと同じくらい派手になることはめったになく、エマーソン、レイク&パーマーほど大袈裟になることは決してなかった。「俺たちは本当に最初からプログレッシヴ・バンドであると思われている」と、ギタリスト兼フルート奏者のアンディ・ラティマーは、2010年に出版されたウィル・ロマーノの著書『マウンテンズ・カム・アウト・オブ・ザ・スカイ:ザ・イラストレーテッド・ヒストリー・オブ・プログレ・ロック』のなかで語った。「俺はイエスやキング・クリムゾン、ELPのようなバンドはキャメルよりもはるかにわかりにくいと思ってきた。彼らはおそらくより優秀なミュージシャンだから、もっと理解しにくいものにさせるような、より一層複雑な技術を取り入れたのだろう」。この4人組のセカンド・アルバム『蜃気楼』は、ラティマーとキーボードのピート・バーデンズが、軽快なインスト曲(瞑想的な「スーパーツイスター」)や長々とした複数部構成の組曲(『指輪物語』をテーマにした「ニムロデル~プロセッション~ホワイト・ライダー」)のなかでリズム・セクションをリードしながら、彼らのデビュー作に散りばめられた約束を果たしている。by R.R.

Translation by Deluca Shizuka

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