ショーン・ペンが語る:麻薬王エル・チャポとの会談(後編)

私は自問する。そんな風で一体どこの野郎がビジネスを動かせるというんだ? 私はケイトにドナルド・トランプさながらに振る舞い、電話やテキストメッセージ、暗号化したメールで彼女に激しく当たった。しかし結局のところ遅れは技術的な能力の欠如とはなんの関係もなかったのだ。大きな驚きだ。どんな悪事がこの男によって引き起こされたものだとしても、彼が都会で生きていくための天才的かつ疑いようのない能力を持っていたとしても、同時に彼はつつましく、田舎者のメキシコ人である。この世界における自分の位置付けに対する彼の見方は、文化的な格差という大きな謎に直面していた。かつては小作農で、今は億万長者の麻薬王となった男は、山々の向こうに広がる世界で自分が関心の的になっているらしいという考えに圧倒され、いくぶん戸惑っている。この遅れはその証明だった。そして日々遅れていたことは、彼の中の不安を露呈するものだったのだろう。彼は案内もなくカメラの前にいる、人見知りをする不器用なティーンネイジャーのようだ。それともこれもすべて入念に作り上げられたパフォーマンスだったのだろうか?

ついにこれら輪を彼はジャンプして潜り抜けた。大部分はケイトのおかげだが、私の無慈悲な指示もある。エル・チャポ・グスマンとシナロアカルテルと関わった中で私に残された唯一の恐怖は、メキシコ人女優がアメリカ人男優に復讐を遂げることだ。この男優は必要なビデオを手に入れる為に彼女との友情を徹底的に悪用したのである。暗号化されたメッセージがケイトから届いた。「やったわ!」 ケイトから追って詳しい連絡が携帯電話に入ると、私は興奮で飛び上がりそうになった。「あなたは本当にムカつく馬鹿野郎だわ」。そう言われるだけのことを私はしていただろう。エル・チャポの配達人が彼女にビデオを届けたのは間違いなかった。ケイトと私は会い、私はケイトに謝った。彼女は自分のデバイスから私のものにビデオを転送した。家に帰ると私は部屋の明かりを消し、ケイトが英語の訳をつけてくれたビデオを見るために座った。そのビデオは彼女の注意書きで始まっていた。「このビデオは約17分間あります。再生ボタンを押してください」。

彼はターコイズとネイビーのペイズリー柄の長袖のボタンダウンのシャツに、清潔な黒いスラックスを履き、適当に置かれたスツールに座っている。前回会ったときに生やしていた、彼を象徴するような口ひげはなくなっている。彼のトレードマークであるメッシュのキャップもない。髪はきちんと梳かし、なでつけてある。またはキャップのせいでそうなっていたのだろう。先生に呼び出され不安で目を大きく見開いている男子生徒の姿を思い出させた。彼は手を組み、自分を落ち着かせるように、親指を反対側の手の指の節に重ねている。彼の近くには白いブロックで作られた低い壁があり、その上にはチェーンで繋がれたフェンスがある。その後ろには白い4x4のピックアップトラックがある。大きな牧場のような場所だ。遠くには低い山々が見え、農場で飼われている雄鶏の断続的な鳴き声が、インタビューの中でギリシャ演劇のコーラスの役目を果たしている。ビデオ全編を通して、農場の労働者と自警団のメンバーが彼の後ろを横切るのが見える。一匹のジャーマンシェパードが土を嗅ぎまわり、画面の外へと消える。

エル・チャポ インタヴュー動画17分間のフルバージョン(出典:RollingStone

Translation by Yoko Nagasaka

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