ボブ・ディランの巨大な60年代ブートレッグ・シリーズの内側

これら3枚のアルバムに対するディランのアプローチは全く違っている。半分がアコースティックである『ブリンギング・イット・オール・バック・ホーム』の録音には、わずか3日しかかけていないし、「エデンの門」の録音にいたってはシングルテイクで済ませている。これに対し、『追憶のハイウェイ61』にはかなりたくさんの時間がかけられており、録音プロセスもほとんどカオスに近い。「『追憶のハイウェイ61』の録音は驚くほど無計画だった」とクーパーは語っている。クーパーはこのセッションに忍び込み、結果的には「ライク・ア・ローリング・ストーン」で、これまでほとんど弾いたことがなかったオルガンを演奏していることで有名だ。「プロにあるまじき現場だった。そもそも私が演奏していること自体がおかしいだろう。でも、次の『ブロンド・オン・ブロンド』の頃には、現場は完全にプロフェッショナルなものに変貌していた。私もスタジオ入りの前から全曲を把握していたし、バンドのメンバーにもボブより先に私から指導することができていたからね」。

『ブロンド・オン・ブロンド』のセッションは、このCDセットが探り当てている最も豊かな鉱脈で、ほかの2作のアルバムよりも遙かに多数のアウトテイクを収録している。ぐっとグルーヴィーな「メンフィス・ブルース・アゲイン」ではディランのヴォーカルのシンコペーションが聞かれるし、落ち着かないほどダンサブルな「女の如く」からは、アンフェタミンや霧についての歌詞が欠けている。この段階でディランは制作スピードを落とし、歌詞を微調整したり、ガラッと違うアレンジを実験したりしている。クーパーはこう振り返っている。「ナッシュヴィルでは、我々は正午くらいにスタジオ入りして、帰宅するのは朝の6時頃だった。でも、その拘束時間中に実際に演奏しているのはほんのわずかの時間だった。ある時など、僕らはディランが歌詞を書いている間、6時間も待たされて、ピンポンで遊んでいたんだよ」。

『ザ・カッティング・エッジ』は、『アナザー・セルフ・ポートレイト』『ザ・ベースメント・テープス・コンプリート』に次いで、この2年で3つめのブートレッグ・コレクションとなる。ディラン陣営にとって、音源倉庫を掘り返す作業は完結からはまだほど遠いようだ。ディランの情報筋は次のように語っている。「ボブがグリニッジ・ヴィレッジのコーヒーハウスで歌っている音源など、アルバムになる前のアウトテイク集を作りたいと考えている。それに、『血の轍』『インフィデル』『オー・マーシー』や、ゴスペル系のアルバムのアウトテイク集も作りたいんだ」。

Translation by Kuniaki Takahashi

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