ショーン・ペンが語る:麻薬王エル・チャポとの会談(前編)


4日後の10月2日、エル・アルト、エスピノーザ、ケイトと私はロサンゼルス周辺にある空港から自分たちでチャーターした飛行機に乗り、メキシコ中部の街へと向かった。

着陸するとホテルの運転手たちが私たちをミニバンでホテルへ連れて行った。私たちはそのホテルに予約するよう事前に指示されていた。すべての生物、そして無生物を怪しみながら、私は車や運転手、幼児を抱いた母親、祖母、通りにいる農夫たち、ビルの屋上、カーテンのしまった窓に目を走らせた。私は上空にヘリコプターを探した。麻薬取締局とメキシコ政府が私たちの動きを追っていることを私は疑わなかった。2012年1月のツイートでケイトが孤立して以降、私たちがエル・チャポと会うために暗号化した交渉を始めてからも、私は彼が進んで私たちの訪問という危険を受け入れたことに戸惑っていた。もしケイトが監視されているのなら、同じフライトの乗客名簿に名前のある者も同様に違いない。監視の目は私には認められなかったが、彼らはいるのだろうと推測した。

ホテルに近づくと、フロントガラスの向こうにカジュアルな服装をした40代の男性が歩道に出てくるのが見えた。彼は携帯電話をかけながら運転手を通用門の方へと導いた。彼がエル・チャポの仲間であるアロンゾだということを私はそのとき知った。私たちはバッグを掴むとミニバンを降りた。ほぼ即座に迎えの場所として指定された場所周辺から車が消えた。

私の見えないところで誰かが周辺の道路を通行止めにしているのだ。そして装甲仕様のSUVの一団がホテルの前に現れた。アロンゾは私たちに携帯電話やコンピューターなどの電子機器を諦め、置いていくように頼んだ。この要求を予測していたので私は自分の携帯電話などをロサンゼルスに置いてきていた。

私の同僚たちは自分の電子機器をホテルのデスクに預けた。私たちは車両に素早く押し込まれる。アロンゾは用心深く見守り、私と同僚は後部座席に乗る。アロンゾと運転手は早口のスペイン語で静かに話している。私自身はスペイン語が得意とは言い難い。昼間はどうしても必要になったときに、“オラ(こんにちは)”と“アディオス(さようなら)”だけを使っている。夜にはおそらく何杯かのビールのせいだろうが、ゆっくりならどうにか話して聞くことができる。前の座席で交わされている会話は私たちの脅威にはならないようだった。私たちの旅を円滑に進めるため、輸送手段について協力しようと話し合っているだけらしい。1時間半、街から離れ農用地を横切って走っている間、2人の男は頻繁にブラックベリーメッセージを受け取っている。おそらく私たち一行の安全を保つためにルートを変更しているのだろう。メッセージが届くたびに、スピードメーターの針が上昇していった。私たちの車は時速100マイル以上で走っていた。私はスピードを出すのが好きだ。しかし自分の手がハンドルにないときはそうではない。冷静になろうとして私はこの旅の経路を覚えなくてはならないようなふりをしていた。私はそれに集中し、私たちの追跡を導く2人の見知らぬ男の間で交わされる会話には注意を払わない。

私たちは土がむき出しの飛行場に到着する。仕立のいいスーツを着たセキュリティの男たちが 6人乗りの単発プロペラ機2機の横に立っていた。その1機に乗り込んだとき、私は運転手がエル・チャポの29歳の息子、アルフレード・グスマンであることに初めて気がつく。彼は私の横に乗り込む。彼は私たちを彼の父親に会わせる私的なエスコート役に指定されていた。彼はハンサムで、引き締まった体を持ち、上品な服装をしていた。彼の腕時計の値段は多くの国民国家の中央銀行が貯蔵している金額を超えるだろう。彼はとんでもなくくだらない腕時計を持っているのだ。

飛行機が離陸し私たちは2時間ほど旅をした。並んだ2機の飛行機は山岳地帯のジャングルの上空を上下しながら飛行する。私は再び、エル・チャポが私たちを迎え入れることで負う危険について考える。私たちは目隠しをされていなかった。経験を積んだ旅行者なら誰でも、後からこの旅路を三角法を使ってたどるために必要な目印を集めることができたであろう。しかしエル・チャポが手紙とブラックベリーのメッセージを通してしか知らないケイトを信頼していることから、私たちは普通とは言えないほど信用されている。私たちが追跡や監視の対象となっていないと確信できるのはなぜか、私はアルフレードに尋ねる。彼は微笑むと(彼はほとんど瞬きしないことをここに記しておこう)、コックピットの制御パネルの下にある周波数帯変換器の赤いスイッチを指差す。「この変換器が地上のレーダーをブロックするんです」彼は言う。そして軍の高高度偵察機が配備された場合は、それを通知する潜入スパイがいることを付け加える。望まれない視線に私たちが晒されていないことに彼は大きな自信を持っている。 ケイトに通訳してもらいながら、フライトの間じゅう、私たちは会話を交わす。到着する前に彼の父親の歓迎をふいにする恐れのあることを言わないように、私は十分気をつける。

Translation by Yoko Nagasaka

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