アデル インタヴュー(前編):「子供を産まなかったら、私は音楽の世界に戻ってこなかった」

『25』を携えたワールドツアーの開催についてはまだ決まっておらず、リハーサルは主にテレビでのパフォーマンスを念頭に置いているという。バックバンドには新メンバーが数名加わっており、彼女はとりわけパーカッショニストの参加に興奮しているという。アデルはこう続ける。「子供の頃スパイス・ガールズが大好きだったんだけど、そのライブで観たパーカッショニストがものすごく衝撃的だったの」

ポール・エプワースと共作し、オスカーを受賞した007のテーマ曲『スカイフォール』以降の数年間、彼女がメディアの前に姿を見せることはほとんどなかった。彼女はこう話す。「特に話すべきこともないのに、カメラの前に出る必要はないもの」しかし、彼女が沈黙を美徳とするタイプではないことは明らかだ。「フランク・オーシャンの次のアルバムはいつになったら出るのって感じよ。いくらなんでも遅すぎだと思わない?」彼女は興奮気味にこう話し、一瞬はっとしたように止まったあと、笑ってこう続けた。「でも私が言えた義理じゃないわよね」

現在の成功を自覚しつつも、アデルは本来の自分を忘れないように努めているように見える。ボディーガードの運転するレンジローバーに先導される立場でありながら、今でも自分は「ロンドンのどこにでもいる普通の女の子」だという。ポップのメインストリームからは距離を置いた作品であるにもかかわらず、伝統的なソングライティングと挑戦的でオーガニックなアレンジを融合させた『21』は、ここ数年で他に類を見ない破格の成功を収めた。そのスタンスは彼女のキャリアそのものにおいても変わらない。「音楽は私の人生において趣味でしかないの」そう話す彼女は、作品を発表し、ツアーに出て、数年間なりを潜めて曲を書き溜めるというサイクルを理想としているという。彼女のマネージャーのジョナサン・ディケンズはこう話す。「彼女は20枚くらい作品を残すんじゃないかな。僕らは長期的にものを考えてるんだよ」

「私が名声を嫌ってると世間は思っているわ」アデルはこう話す。「でもそうじゃないの。私は名声が怖いのよ。その誘惑に耐えられなくなる人はたくさんいるもの」過去に彼女はエイミー・ワインハウスと頻繁に比較されていたが、本人と顔を合わせることが何度かあったという。「彼女がその誘惑に飲み込まれていくさまを目の当たりにして、私は名声の怖さを肌で感じたの。彼女が堕ちていく姿はメディアの格好の的にされてしまってた。不憫に思っていたけど、彼女の悲惨な姿を取り上げるニュースを私もやっぱり見てしまってた。誰も興味を示さなければメディアが取り上げることもないってわかっていたのに。ショービジネスの世界に慣れない人間にとっては、そういう世間からの過剰な注目は恐怖でしかないのよ」

アデルは今でも有名人としての立場に慣れないという。今年、とあるバックステージで長年の憧れの存在であるスティーヴィー・ニックスと対面した際、彼女は感動のあまり子供のように涙を流し続けたという。「有名人で溢れ返る場所に私が慣れることはこの先もないと思うわ」そう話す彼女は、トッテナム(※ロンドン北部ハーリンゲイ・ロンドン特別区にある地区)でもとりわけ治安の悪い地域で幼少期を過ごしている。「ある日突然ゴミのように捨てられるんじゃないかっていつも感じてる。その辺からカメラが出てきて、全部どっきりでしたって宣告されて、トットナムでの生活に戻ってしまうんじゃないかって」頻繁に見るという高層ビルから落ちる夢は、彼女の恐怖心の表れなのかもしれない。

Translation by Masaaki Yoshida

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