現在カントリーの世界には、商業的なカントリーとオルタナティヴ・カントリーが存在する。ふたつの間には確執があるが、アシュリー・モンロー自身はどちらの側にもついていない。モンローにとって3枚目のアルバムとなる本作で、彼女はかつてカントリーの主流だったもの、60年代のロレッタ・リンやドリー・パートンはもちろん、80年代のエミルー・ハリスや90年代のリーバ・マッキンタイアなどを自作に反映し、2015年に見合ったメインストリームを創造しようとしている。タイトルトラックは、少々陳腐な“愛の苦痛”を訴える曲(“あなたは愛をハンドルで捕まえ/私はナイフで捕まえた)であるが、それをモンローは洗練されたバラードに変えてしまう。しかもその傷は、最後まで癒えることはない。フレージングは非の打ちどころがなく、その音色は甘い紅茶のようだ。

 モンローのライティングはいつもウィットに富んでいる。しかし本作はその点、少し控えめだ。最も軽いノリの楽曲は「I Buried Your Love Alive」と「Winning Streak」。前者はナッシュヴィルで公演するクランプスを想起させる“墓場ロック”、後者はジョーダネアーズふうのバックコーラスがついたホンキー・トンク。しかしどちらの楽曲も、彼女が抱える痛みを隠すことはできない。本作のなかでアリーナのステージにふさわしい楽曲は、「Bombshell」だ。モンローは意気揚々とした曲に乗せて、“もうあなたを愛することはできない”と、思いもよらない歌詞を口にする。聴き手は叫び声をあげていいのか、悲しんでいいのか、迷うところだろう。

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