いかに細部までこだわるジェイムス・テイラーにしても、13年というのは長い。そんな年月を経てリリースされたこのアルバムには、彼の過去が身近な現実として描かれている。“どういうわけか、俺はまだ生きている”と、本作収録のシングル曲「トゥデイ・トゥデイ・トゥデイ」で歌うテイラー。「エンジェルズ・オブ・フェンウェイ」では、亡くなった祖母と彼女のボストン・レッドソックスへの献身を感動的に振り返る。テイラーがソックス・ファンになった1965年も“それほど昔のこととは思えない”そうだ。

 楽曲のシンプルさは、テイラーのノスタルジックなムードに調和している。時間の流れによっても傷つくことのなかった彼の声とギターに新たなる焦点を合わせた本作は、過去何年もの間で最も直接的な作品となった。感情の葛藤を抱えるアメリカ人兵士の視点から歌った「ファー・アフガニスタン」は、ケルト音楽のルーツが感じられる楽曲で、初期のテイラーを思い起こさせる。タイトルトラック「ビフォア・ディス・ワールド」と「ジョリー・スプリングタイム」の組み合わせは、『スウィート・ベイビー・ジェイムス』に収録された70年の名曲「スイート・フォー・20G」を想起させる。もちろんこちらのほうが、年齢を重ねたぶん、より思慮に富んだバージョンとなっている。少々月並みな楽曲がいくつかあり(ワールド・ミュージックを意識した「スノウタイム」など)、薄絹のような繊細なハーモニーへの過度の依存で楽曲が没個性化されてしまった部分もあるが、本作はスウィートな“大人のジェイムス”が楽しめるアルバムといえよう。

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