『グランド・ロマンティック』でのネイト・ルイスはまるで、少々錯乱したフレディ・マーキュリーのようだ。2曲目の「アーハー」では、堂々とした伴奏に合わせて“死のうかと思った”と歌うルイス。“でも母さん、泣かないでほしい。僕はその悲劇の中に歌を見つけたから”。

 ファン.のリードシンガーであるルイスは、自虐的なロマンティシズムを持っている。しかしそれが、バンドの並外れた野心にふさわしい“感情の核”を与えてきた。バンドが活動休止中の今、本作は彼が自身の楽曲に磨きをかけ、ヴォーカリストとして自らの可能性に挑戦し、己の中にあるクイーン的な側面と一体化して、自分の気を滅入らせるすべてのものに対して戦いを挑む機会を与えた。

 ファン.の共同プロデューサーでもあるジェフ・バスカーとエミール・ヘイニーは、本作でもルイスを手助けし、豪華なアレンジの音楽を作り上げている。ソフト・ロックの「ホワット・ディス・ワールド・イズ・カミング・トゥ」ではベックがゲスト参加。ソウルフルな「テイク・イット・バック」では、ウィルコのジェフ・トゥイーディーが味のあるギターを加えている。

 しかしルイスが本領を発揮するのは、「グレイト・ビッグ・ストーム」といった痛烈なエモーションを表現した曲だ。大きく高まっていくストリングスと、壮大な合唱が加えられた楽曲で、超人的なテノールを響きわたらせるルイス。音楽には葛藤するドリーマーの存在がつきものだが、彼のように“少し時間をくれ……涙を流す時間を”(「モーメント」)といった告白を、まるで一斉射撃のようにぶつけてくる男はそうはいない。

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