1961年4月、ケネディ大統領は米国の新聞社に対して演説した。その趣旨は、世界には“冷酷な陰謀”や“脅迫で統治される政府”による脅威が存在し、そんな中、報道の自由があることにどれくらい価値があるかについてだった。彼は共産主義という言葉は使用しなかった。その必要がなかったのだ。

 英国出身の3人組ミューズは、このスピーチを『ドローンズ』の「[JFK]」でサンプリングしている。シンガー兼ギタリストのマット・ベラミーも、歌詞の中で特定の悪者を引き合いに出しているわけではない。しかし含意されることは明らかだ。悪事を働く者、それは我々なのだ。
『ドローンズ』は少々後ろめたい喜びを覚える作品だ。コンセプトは、現代の戦争の遠隔操作による殺人と、それに伴う良心の痛み、そして理想の崩壊。『ザ・セカンド・ロウ~熱力学第二法則』よりもダークな内容になっている。

 本作のミューズは、近年の装飾的で極端さの目立つ音楽から一転、『オリジン・オブ・シンメトリー』の頃のシンプルな力強さと勇壮なリフに舞い戻った。明らかに80年代の装飾も施されていて、「マーシー」ではU2スタイルのピアノが入り、「ディフェクター」ではクイーンふうのハーモニーも取り入れられている。だがこれらの楽曲の中心となるのは、『オリジン・オブ・シンメトリー』の「ニュー・ボーン」や『アブソルーション』の「ストックホルム・シンドローム」をアップデートした、ギター&ベース&ドラムの威力だ。これこそがミューズの得意とすることであり、こういった演奏が多く聴けるのは喜ばしい。

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