ゼッドの手にかかれば、トム・ウェイツでさえも爽快なサマーヒットを作り出すことができるだろう。2013年の自身のヒット曲「クラリティ」から2014年のアリアナ・グランデによる「ブレイク・フリー」まで、この25歳のドイツ人プロデューサーが扱うものはすべて、キャンディレイバーたちにうってつけの楽曲となってきた。ゼッドのセカンドアルバム『トゥルー・カラーズ』には、恋愛、失恋などについての楽曲が収録されているが、真のテーマとなっているのは彼のビートだ。オープニング曲「アディクテッド・トゥ・ア・メモリー」はインダストリアルミュージックを思わせる出だしに続いて、原発がメルトダウンしたかのようなサイレン、そしてプログレふうキーボードが導入されていく。本作のハイライトとなる「ストレイト・イントゥ・ザ・ファイア」はシンセサイザーのアルペジオでフェイントをかけた後、熱狂的なフックを爆発させる。

 触ったものすべてを黄金に変えるゼッドの“ミダスタッチ”は代償を伴う。サウンド作りや、セレーナ・ゴメスやロジックといった豪華なヴォーカリストの起用はメジャーレーベルならではだが、ゼッドの個性が埋没している楽曲もある。例えば、8曲目に収録されている「ペーパーカット」は7分半にわたるピアノが使用されたバラードだが、いささかパワーに欠けている。しかしその後に続く「バンブル・ビー」では、悲惨な失恋を経験した後にやけ酒をぐいぐいとあおってるかのごとく、疾走していく。どうやら『トゥルー・カラーズ』というアルバムタイトルから感じられるシンディ・ローパーへのリスペクトは本物であるかもしれない。彼は“ジャスト・ワナ・ハヴ・ファン(ただ楽しみたいだけ)”なのだ。

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