マイ・モーニング・ジャケットは、ひと筋縄ではいかないバンドだ。サザンロッカーではあるがナッシュヴィルとは関係なく、ジャムバンドのヒーローでありながらジャムをせず、クラシックロックの信奉者でありつつもインディロックの感性を持っている。独自のジャンルを築き上げた彼らは、過去に触れながら、時代を逆行するようなサウンドになることはない。最新アルバム『The Waterfall』がその代表的な例で、シンセサイザーの音が溢れる80年代ポップやプログレ、フィリーソウルなどを融合しつつ、しかもマイ・モーニング・ジャケットらしい作品となっている。

『The Waterfall』は、これまでリリースされた彼らのアルバムの中で、最も明るく最も奇抜な作品かもしれない。「Tropics (Erase Traces)」はイエスの名曲「ラウンドアバウト」を彷彿させるアルペジオで開幕。オーケストラふうに音が重ねられてゆく同曲は、フォークロックでありながら、素晴らしくロジカルなサイケメタル的終焉を迎える。「In Its Infancy (The Waterfall)」はザ・バンドの「チェスト・フィーバー」を思い起こさせる一曲。「Thin Line」のほうは、ピンク・フロイドふうのスタイリスティックスとでもいうべきだろうか。いずれの楽曲でも、ジム・ジェームスのハイテナーと卓越したファルセットがバンドの中心となっている。

「Only Memories Remain」でもそれは明らかだ。ざわめくようなギターソロが含まれるこの瞑想的な楽曲を聴いていると、太平洋に沈む夕陽を電子タバコの煙越しに見ているような気分になってくる。健康にも気づかいながら娯楽にもなるという意味で、完璧なバランスといえよう。

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