1963年、シンガーのフィル・メイと、ザ・ローリング・ストーンズのオリジナル・ギタリストであるディック・テイラーによってロンドンで結成されたザ・プリティ・シングス。そのバンド名は55年のボ・ディドリーのシングル「Pretty Thing」から取られ、デビューアルバムでも彼の曲を4曲カヴァーしていた。ディドリーの象徴的なシャッフルとトレモロ奏法をさらに強調し、64年リリースのシングル「ロザリン」や「ドント・ブリング・ミー・ダウン」などに採用、狂乱のR&Bを作り出し、ガレージロックやパンク、グラムロックといった音楽の“不良的イメージ”のモデルともなっている(例えばデヴィッド・ボウイはこの2曲を73年にリリースされたアルバム『ピンナップス』でカヴァーしている)。

 大方のバンドなら、これだけでも歴史に名を刻むのに十分だろう。しかしながら彼らは、せっかちなモダニストだった。ブルースへの熱情をサイケデリック(67年リリースの「ディフェクティング・グレイ」)、ロック・オペラ(ザ・フーよりも早い68年リリースの『S.F.ソロウ』)、プログレッシヴロック(70年リリースの『パラシュート』)へと展開し、商業的には惨めな結果に終わったものであっても、もたらした成果は目を見晴るほどのものだった。この素晴らしいボックスセットは、11枚のスタジオアルバムと、ファンも満足のいくボーナストラックを通じて、今日に至るまでの彼らの物語を伝える(収録曲には、ザ・ビートルズの「ヘルター・スケルター」なども含まれる)。テイラーがかつて所属していたバンドのほうがより大きな影響力を持っているかもしれないが、このバンドも一家言を持たずにはいられないようだ。

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