ロサンゼルスを基盤として活動するヒップホップ集団、オッド・フューチャー。アール・スウェットシャツはその最もミステリアスなメンバーだ。2013年リリースのアルバム『Doris』で、現実世界での疎外感を探求し、実力を証明したアール。この秀逸なセカンドアルバムでは、自分の得意とするところをさらに突き詰め、ゾンビめいた活力のないトラックにのせて難解で辛辣なライムを解き放ち、リスナーを日の当たらない現実へと吸い込んでいく。これだけ閉ざされた音楽が、これほどまでに人を夢中にさせるのはまさに驚くべきことだ。

 いつもと同様、アールは自分の中の悪魔と向かい合う時に最もその力強さを発揮する。オープニング曲「Huey」では“その日、俺の婆さんのことを恋しく思って酒を飲んだ”とラップし、本作の荒涼とした雰囲気を完璧に要約。続く「Mantra」では凶暴な形で自己の存在を誇示し(“包丁と銃弾とマリファナ/そのひとつを手にして血を流す”)、失恋の落胆を歌った曲へと移行していく。

「Grief」では引きこもりの惨めな状況を活写するアール(“自分の時間と精神状態を正常に保ちたい/それをなくした時には買い戻すことはできないんだ”)。たったの30分間で10曲のみ収録された『 Don't Like Shit, I Don't Go Outside』は驚くほど簡潔な作品だと言える。しかし、時にダークで偏執狂的なこのアルバムと比較すると、スライ&ザ・ファミリー・ストーンの『暴動』がコメディ番組『Three's Company』のテーマ曲のように聞こえてくる。いったい誰がこれ以上を求めようか。アールはたったの30分間で、一生分のおぞましい記憶を我々に与えるのだ。

RECOMMENDEDおすすめの記事


MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE