90年代、ブリットポップのバンド間で、世界でのアルバム売り上げ枚数やUKでの首位獲得シングル枚数、ゴシップ欄に取り上げられる回数などに関して、大規模な戦いが繰り広げられた。そして勝ったのはオアシスだった。しかし音楽的な模索や、残したものの大きさにおいては、最大のライバルであったブラーがオアシスを完全に打ち負かしている。

 オアシスが望んだもの、それはザ・ビートルズとザ・フーを足したくらい、ビッグになること。だがブラーが実現したもの、それはビートルズやフーと同様の、音楽的進化だった。1993年の『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』から99年の『13』にいたるアルバム5作は、彼らのスタジオ制作のピークと言える作品だ。ブラーはきびきびしたモッズミュージックやシューゲイザーふうのサイケデリック、革新的なダンス音楽、壮麗なバラード、トゲのあるオルタナティヴの中で、ブリットポップ世代が虚勢を張る一方、実は内に不安を秘めていることを明らかにしてみせた。

 ブラーはバンドの持続性においても、ほかのバンドに勝っていることを証明している。オアシスは2009年に解散したが、ブラーはシンガーのデーモン・アルバーン、ギタリストのグレアム・コクソン、ベーシストのアレックス・ジェームス、ドラマーのデイヴ・ロウントゥリーという不動のメンバーで活動を続け、この度16年ぶりの新作をリリースした。90年代の傑作群と同様、現代的な音楽の探求という点では無謀とも思えるような前進を続け、破壊力のあるポップセンスもいまだ衰えていない。『ザ・マジック・ウィップ』は中国の爆竹の商品名にちなんでつけられたタイトルで、収録された曲の骨格は極東での大規模なコンサートが中止となった際、急に思い立って香港でレコーディングされたものだという。ブラーの作詞家で、ソロアーティストとしてアジアやアフリカ出身の幅広いミュージシャンとコラボレーションしているアルバーンは、「ゴースト・シップ」(“ケーブルカーに揺られ/宝蓮禅寺まで”)や「オン・オン」(“君と一緒にいたい/ランタオ島行きののんびりと走るボートに乗って”)といった楽曲で香港に触れている。

 アルバーンは、奇抜な着想のヒップホップグループ、ゴリラズのようないくつかのバンドを抱えるスターであり、舞台音楽家でもある。その一方でコクソンは、気まぐれのようにソロ作品をリリースしてきた。ふたりともブラーの絶頂期には常に限界に挑み、真に完璧なアルバムを作ろうと躍起になっていた。今回もその姿勢は変わってはいない。ただ「アイ・ブロードキャスト」のように、「ソング2」スタイルの楽曲をもっと収録しても良かったかもしれない。

 しかし、このアンニュイな作品の最後には、新たに「ミラーボール」という素晴らしいバラードも収録されている。コクソンの金属的に震えるギターに対して、アルバーンは見事な歌を聴かせる。94年『パークライフ』の「ディス・イズ・ア・ロウ」や95年『ザ・グレイト・エスケープ』の「ザ・ユニヴァーサル」といった楽曲でもわかるように、ブラーはこういった崇高なロマンティシズムに長けていた。オアシスは、野生児として筋肉の鍛錬に励んでいたが、長く続けることはできなかった。ブラーは、まだ取っておいたインスピレーションとともに戻って来た。

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