デス・キャブ・フォー・キューティーにとって本作は、これまで彼らが何とか生き延びてきた証とも言える作品だろう。インディ・ロックのヒーローたちが2011年に『コーズ・アンド・キーズ』をリリースして以降、フロントマンのベン・ギバードは女優でシンガーのズーイー・デシャネルとの離婚を経験し、バンド創立メンバーでギタリスト兼プロデューサーのクリス・ウォラはバンドから去っていった。このふたつの別れは、本作のあらゆるところに影響を与えている。1曲目の「ノー・ルーム・イン・フレイム」で、“この失敗はどうにもならなかったんだ/これからはふたりともほかの誰かと一緒に孤独を感じていく”と歌うギバード。そこには彼の明白な心の痛みが表現されている。

 ギバード自身が人生にはつきものの“失望”に負けてしまうことはないが、そういったモチーフは彼の歌のオリジナリティにもなっている。ダウンテンポの「ブラック・サン」で、希望を見つけ出すことについて歌うギバード。またニューウェーブ調の「エヴリシングズ・ア・シーリング」では、すでに新しい関係を築いている恋人にいまだ焦がれているさまを歌っている(ただそれは、自暴自棄というよりも諦めといった印象に近い)。アルバム全体で、本作のレコーディング直後に脱退したウォラを含むバンドメンバーたちは、バンドの初期のピークである2001年リリースの『ザ・フォト・アルバム』を彷彿させる音でギバードをサポートし、少々もったいぶった形でクライマックスを演出する。デス・キャブ・フォー・キューティーは、自分たちの喪失に一丸となって対応し、胸を締めつけるほどに誠実なアルバムを作り上げた。

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