『レベル・ハート』は、マドンナが熱心に自己を掘り下げ、失われた愛や、心も凍るような時代に生きる目的を見つけることについて、深く考えた作品だ。本作はまた、ポップの女王がいかに苦労して道を切り開いてきたかを示した作品でもある。実際、1983年に彼女がデビューして以来、ほかのアーティストは彼女が作った道を追従してきた。現在でもとんでもなく健康な56歳のスターは、斬新なレゲエ調の「アンアポロジェティック・ビッチ」やニッキー・ミナージュが参加する「ビッチ・アイム・マドンナ」といった曲で、楽しげに“ビッチ”と口にする。アルバム中、3曲で自分自身について言及し、「ヴォーグ」や「ジャスティファイ・マイ・ラヴ」といった楽曲からは象徴的なフレーズを引用。また「ウェーニー・ウィーディー・ウィーキー」には、歌詞に「ライク・ア・ヴァージン」といった過去のヒット曲のタイトルを織り交ぜている。

 本作はまた違った形で、過去を思わせる楽曲から始まる。「リヴィング・フォー・ラヴ」は、ひと昔前の典型的なハウスミュージックで、失恋からの立ち直りについて歌う楽曲だ。一方「ハートブレイクシティ」は、失恋の地獄の苦しみに、真っ逆さまに突き落とされるさまを歌う。過去2枚の作品でガイ・リッチーとの離婚を取り上げたマドンナ。しかしシングルとなった今回は、恋の新参者たちにお灸を据えてゆく。

 本作でマドンナをアシストするのは、2012年リリースの『MDNA』で手助けしたエレクトロの達人でもなければ、2008年リリースのダンスアルバム『ハード・キャンディー』で手を貸したポップの巨人でもない。最先端をいくブラッド・ダイアモンズや大御所アーティスト、カニエ・ウェストのような才人だ。こういったコラボレーションは時に、大きな成果をあげる。ウェストによるグライムふうな楽曲「イルミナティ」(インターネット上で飛び交う陰謀説について)や、アヴィーチーによる「デヴィル・プレイ」(2000年リリースのアルバム『ミュージック』のヴァイヴを復活)が好例だ。「ビッチ・アイム・マドンナ」でのニッキー・ミナージュのヴァースも純粋に素晴らしい。しかし残念ながら、ナズやチャンス・ザ・ラッパー、マイク・タイソンといったゲスト陣が参加した楽曲は、期待どおりにはなっていない。

 またマドンナは、度を超えたセックスに対する欲求をいくつかの楽曲で披露している。オーラルセックス賛歌「ホーリー・ウォーター」では“イーザスはどの女のよりも私のプッシーが好き”という嘆かわしい歌詞をフィーチャーし、「S.E.X」では箸、下着、石鹸、歯科用椅子といった、一般的とはいえない閨房の補助器具リストを挙げている。  結局のところ、アルバムがいちばん輝きを放つのは、参加者全員を脇に押しのけ、マドンナ自身が我々に対してストレートに語りかける時だ。そういった意味では、タイトルトラック「レベル・ハート」でアルバムを締めるのは適切だといえる。アヴィーチーによってオーケストラふうにアレンジされたこの曲で、マドンナは自身が一風変わった子供からナルシストへ、そしてスピリチュアルな思想家へと成長したと回想する。マドンナが心の奥深くに反逆心を持っているのは確かだ。ポップミュージックは、反逆精神があればこそより良いものになることをマドンナは教えてくれる。

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