ア・ベター・トゥモロウ 〜ウーが描く未来

 ついにウータン・クランのメンバー9名全員が協力して、7年ぶりのアルバムを完成させた。しかし本作は、彼らのリーダー的存在であるRZAがプロデュースしたサウンドトラックのような内容で、しかも少々散漫な感じになっている。生楽器を使用し、構成もかなりトリッキーだ。

 エレクトリックなエンニオ・モリコーネ(「フェルト」)、インド映画ふうのグルーヴ(「ロン・オニール」)、スパイ映画のテンション(「ネックレス」)、そして『ゴッドファーザー』のようなドラマ(「ラッカス・イン・B・マイナー」)と、本作を聴くとまるで2本立て、3本立ての映画を立て続けに観ているような気がしてくる。こういった生のドラム音やオーケストラによる装飾は、彼らのトレードマークである、サンプリングを基本とした無限にループしていくようなスタイルの良さを消してしまっている。アルバム中の一曲「ミラクル」は、カンフー映画の中で流れてきそうなパワー・バラード。少しばかり張り切りすぎたのか、まるでジョン・レジェンドがリンキン・パークを目指して頑張ったかのようだ。彼らのラップがいまだこの世で最も巧みであり、かつ個性的であることを考えると、本作のこういった欠点は少々残念に思われる。

 メンバーのひとり、メソッド・マンは現在43歳。彼はエミネムやバスタ・ライムスのように、年齢を重ねるごとに複雑でテクニカルになっていく、ベテラン・ラッパーだ。サイエンス・マニアのGZAも負けてはいない。土星の環にある氷と塵について、息つく暇もなくラップする。本作をひと言で表現するなら、“偉大なファイターたちが、居心地の良くないアリーナで精いっぱい競い合ったようなサウンド”かもしれない。

RECOMMENDEDおすすめの記事


MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE