The Hunger Games: Mockingjay Part 1 Original Motion Picture Soundtrack

『ハンガー・ゲーム』のサウンドトラックを担当する人物として、ロード以上に最適なアーティストはいないだろう。18歳にしてスターとなったロード。しかしスターになる前は、映画の中の有名人などよりも、シネマコンプレックスにいる子供たちとのほうが共通点が多かったにちがいない。

 もともと熱心なファンであったかのごとく、ロードは映画『The Hunger Games: Mockingjay Part 1(原題)』(ヤングアダルト向けSFシリーズの3作目)の音楽監督の役割に専心。ポップのルールを無視してきた彼女のやり方はそのままに、この映画にふさわしい、音楽的にも幅広い作品にまとめ上げた。たいていのできの良いサウンドトラックがそうであるように、この作品もさまざまな楽曲が上手く1枚のアルバムに収まっている。

 2012年の『ハンガー・ゲーム』のサウンドトラックは、オルタナティヴ・フォークとカントリーに比重を置いていた。2013年の続編『ハンガー・ゲーム2』は、80年代のパワー・バラードの匂いを醸し出していた。本作の場合は、当然かなりロードっぽいサウンドになっている。ごく自然な形で、ゴスやインディ、ダンス・ミュージックやヒップ・ホップといった楽曲を収録し、しかもとても力強い。ストリート・ラップの大物でザ・クリプスのメンバーであるプシャ・Tと、少々アート志向が強すぎるバット・フォー・ラッシェズが、ここでは上手く共存している。スウェーデンのシンガーであるトーヴェ・ローによる内省的な楽曲から、ティナーシェのいつまでも耳から離れない、白昼夢めいたクラブサウンド、チャーチズの心にざわざわとした感情を巻き起こすシンセ・ポップまで何でもありだ。

 これらの楽曲にまとまりが感じられるのは、『ハンガー・ゲーム』シリーズの持つディストピア的なムードにのっとった“陰鬱さ”と“強烈さ”ゆえだ。本作に楽曲を提供したアーティストの多くは、シリーズに登場する10代の反逆者たち(彼らは過大な負荷に抵抗する暴動に巻き込まれる)の物語を反映した形で歌詞を書いている。「This Is Not a Game」では、才能豊かなR&Bシンガーのミゲルが、“ダンス・ゴッドファーザー”ケミカル・ブラザーズによるソリッドなロックに合わせて、革命的なジャイヴを披露。また「Meltdown」では、ロード、プッシャ・T、Qティップ、ハイムがタッグを組み、心をかき乱すグルーヴを繰り広げる。まるで戦火にまみれた第13地区で、オールナイトのダンス・パーティが行われているかのようだ。

 今回ロードは、ソロで3曲を提供。なかでもベストといえるのは、「Yellow Flicker Beat」だ。『ハンガー・ゲーム』のヒロインであるカットニス・エヴァディーンや、家にいながら彼女の冒険をはらはらしながら見守っているすべてのアウトサイダーにうってつけの“孤独な怒りの歌”になっている(カニエ・ウェストによるこの曲のリミックスは、さらに刺激的。この“アンビエントノイズ地獄”には、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーでさえも悪夢を見るだろう)。もうひとつ注目すべき曲は、「Ladder Song」。こちらの作詞を担当したのは、“SFを読んでいると眠ってしまう”というコナー・オバースト。ソフトなララバイになっている。

 本作のアーティストのほとんどは20代かそれ以下で、ターゲットとなるオーディエンスを考えると、納得のいくラインナップである。しかし最上といえる2曲は、かつてのニュー・ウェーブ全盛期のヒーローたちによるものだ。デュラン・デュランのサイモン・ル・ボンは、UKのトラブルメーカーであるチャーリーXCXと共にヴィクトリア調クランク「Kingdom」で上流気取りの男を演じる。そしてアルバム中、群を抜いて力強い1曲は、グレイス・ジョーンズによる強烈なリズムのダブ「Original Beast」。この曲は、ポップを新たな境地へと導くため、ロードがいかに過去にも目配りしているかを示している。

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